にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

クレオパトラの焼き鳥の話

どうも、にゃこめしです。

先日、1934年のアメリカ映画『クレオパトラ』を見ていると、とても気になるシーンがありました。

何と、小鳥の焼き鳥が登場するのです。

古代ローマの将軍アントニウスクレオパトラが出会うシーンです。
クレオパトラは自身の色気や巧みな話術、大勢の踊り子が繰り広げる幻想的なショーでアントニウスを誘惑します。誘惑に負けてワインを一気に飲み干すアントニウス

そこへご馳走が運ばれてきました。その中には長い串に刺さった小さな肉片が。

「これは何?」尋ねるアントニウスクレオパトラはこう返します。

「ナイルのヒゲガラ」

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ヒゲガラ(髭雀)というのはスズメ目ヒゲガラ科に属する小鳥です。両頬に黒い模様があり、ヒゲに見えることが名前の由来です。
全長は15㎝程。食べる部分は少ししかなさそうですね。

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ヒゲガラは現在エジプトに生息していないのですが、2000年程前のエジプトは温暖で湿潤な気候だったらしいので、現在と生息域が異なるのかもしれません。

しかしながら、少々疑問が残ります。
英語字幕で確認してみると、このセリフは
「reed bird from the Nile」となっています。f:id:nyakomeshi:20220707013201j:image

reed birdで調べてみると、ヨシキリの仲間の小鳥の総称のようです。湿地のヨシ原に巣を作り、繁殖します。reed(ヨシ、葦)のbird鳥というわけです。

f:id:nyakomeshi:20220708111739j:image(↑画像:Wikimedia Commonsより)

では、あの焼き鳥はヨシキリだったのでしょうか。

ヒゲガラもヨシキリ類と同様に、ヨシ原で営巣し繁殖します。ヨシキリとは種族が違いますが、reed birdという言葉の中にはもしかするとヒゲガラも含まれているのかもしれません。

古代エジプトでは家畜や家禽の肉の他に色々な小鳥類も食べていました。

アントニウスは怪訝な顔でヒゲガラの焼き鳥を見つめていますが、この直後、何のためらいもなくヒゲガラの焼き鳥を口へ放り込みます。なぜなら古代ローマ人も様々な小鳥を食用としていましたから…。

ニワムシクイ、ズアオアトリ、ズアオホオジロ、スズメ等々…。

エキゾチックな雰囲気のワンシーンを飾る小道具として、効果的に使われるヒゲガラの焼き鳥でした。

関連する記事↓

食材としての小鳥達について記述している部分があります。

豆苗からエンドウ豆を育てた記録2022

ベランダ菜園での実験、豆苗からキヌサヤ(エンドウ豆)は育つのか。

2021年春はこの実験は大成功でたくさんのキヌサヤが収穫できました。

その事に味を占めて、2022年春も豆苗からキヌサヤ(エンドウ豆)を育てました。最初から最後までの記録を備忘録的にまとめておきたいと思います。

2月14日

スーパーで買ってきた豆苗を美味しくいただきました。食べた後の豆苗の根の塊から、根をなるべく切らないように数本とりだします。昨年は、上部を食べずに残したまま植えましたが、2022年は上部をバッサリ切っています。さて、上手く育つのでしょうか。
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3月6日

ようやく、新しい芽が出てきました。寒さのせいか、ここまでかなり時間がかかってしまいました。ちなみに、ここは関西の市街地で特に寒い地域ではないです。

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3月24日

かわいらしい葉がたくさん出てきました。

他の方が育てているエンドウ豆の様子と比較してみると、ウチの豆苗はかなり成長が遅いようです。さすがに首なし状態からの再生はエネルギーの消耗が激しかったのでしょうか?

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4月8日

スーパーにはエンドウ豆がたくさん出回る季節です。ウチの豆苗達はようやく草丈が伸び、ツルを出し始めたのでコンテナに植え替えです。支柱も立てました。

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5月5日

花が咲き始めました。美しいです。

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5月18日

花盛り、実もなり始めました。
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5月20日

キヌサヤ、収穫です。

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5月25日

収穫。写真はありませんが、この他にも3回程キヌサヤを収穫しています。
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6月3日

気温が高くなり、湿気も多い季節が始まりました。元・豆苗のエンドウ達は突然、葉が白く粉を吹いたような状態になってしまいました。根元ではアブラムシの発生も始まっています。急いで残りの豆をすべて収穫しました。病気やアブラムシが他の植物にうつらないようらエンドウの株は直ぐに引き抜いて処分しました。

ありがとう、また来年と心の中でつぶやきながら。

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エンドウ豆として収穫。
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サヤは見た目が悪くなってしまいましたが、豆は大丈夫。小粒ながら、香りも良く、美味しそうです。
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私の好物、豆ご飯にしました。
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6月27日
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6月3日に収穫したエンドウ豆の一部を、冷蔵庫の中に置き忘れていました。

根が伸びまくっています。
自分のズボラさに呆れるとともに、エンドウ達の生命力に驚きました。このまま捨ててしまうのは可哀想な気がしたので、ダメ元で土に植えました。

 

6月30日


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エンドウ豆は暑さに弱いはずなのですが猛暑の中、元気に発芽。
育つのかな。
メンデルの法則に従うなら、自家採種したエンドウ豆を育てると、どんな性質の豆が育つかわかりません。
シワのある豆や色の違う豆ができるかも。それはそれで楽しみですが、暑さで育たない可能性が高いです。

 

続く…かもしれない

 

追記:その後しばらくは順調に育ったのですが、結局、真夏の暑さで枯れてしまいました。やはり季節を無視しての栽培はできなかったようです。発芽したエンドウたちにはかわいそうなことをしてしまいました。反省。

↓2021年の記録はこちらから

↓来春は豆苗を育てるかツタンカーメンのエンドウを育てるか迷っています

イセエビとタコの戦いとアリストテレスの話

どうも、にゃこめしです。

先日でポンペイ展で「イセエビとタコの戦い」というモザイク画を見てきました。f:id:nyakomeshi:20220627214144j:image

このテーマは壁画の題材として好まれたようで、「イセエビとタコの戦い」を描いた画は他にも存在します。しかしこれには一体どのようなストーリーがあるのでしょうか。

じつはこれは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの著作から引用したテーマだとされています。
ローマ人はギリシャの学問に精通していることが大切な教養でした。大きな家を持つ者はギリシャの神話や哲学者の語った内容などを壁画にして、教養の高さを示していたといいます。

アリストテレスは著書『動物誌』で以下のように記しています。

タコと大型のエビとアナゴは三すくみの関係にある。
すなわちまず、タコは大エビを食べる。大エビは自分と同じ網の中にタコがいると分かっただけで恐怖のために死んでしまうほどだという。
ところがタコは、一方でアナゴには食べられてしまう。アナゴは体がぬるぬるしていて、タコも戦うすべがない。
しかしこんなアナゴも、大エビにはやられてしまうそうだ。

普及版 世界大博物図鑑 別巻2 
水生無脊椎動物 荒俣宏

アリストテレス曰く、イセエビとタコとアナゴはお互いに得意な相手と苦手な相手を一つずつ持つことで、三者とも身動きが取れなくなる状態だというのです。
ジャンケンのグーチョキパーのような存在です。

ちなみここで言及されているアナゴはウツボの事だと思われます。

古代ローマの文献ではウツボはアナゴやウナギと混同されており、翻訳の際も区別されないことが多いです。
しかし、この三すくみのテーマを説明する場合、ウツボと解釈したほうが自然なので、以下ウツボと表記します。

ポンペイ展で展示されていモザイク画、「イセエビとタコの戦い」の中央部分を拡大してみると

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上にウツボがいるのがわかります。

さらに、別の「イセエビとタコの戦い」のモザイク画を見ると

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こちらは右側にウツボがいます。

さらに、こちらはローマ国立博物館所属の紀元前2世紀頃のテンペラ画です。f:id:nyakomeshi:20220627235526j:image
(画像はwikimedia commonsより)

ウツボも戦いに参戦しております。絡まり合って三つ巴状態です。

ちなみに、アリストテレスの著述と現実の生態とを比較してみると、少々納得のいかない部分もあります。現実の生態では、

タコはイセエビを好んで捕食します。
ウツボはタコを好んで捕食します。
そして、イセエビは海底の微細な貝類や甲殻類節足動物などを捕食します。ウツボは食べません。(アナゴも食べません)

これでは三すくみが成立しませんが、日本で昔から伝わっている三すくみの例である、虫拳(カエル、ナメクジ、ヘビ)なども必ずしも納得のいくものではありません。

ジャンケンみたいにまぁそういうモノ、という認識程度で良いのかもしれません。

ちなみにイセエビはウツボと共生関係を築く事があるそうです。
イセエビは捕食者であるタコからウツボに守ってもらい、
ウツボは大好物であるタコがイセエビを捕食しようと寄ってくるからだそうです。

ウツボとイセエビが一緒に仲良く過ごしている光景が、アリストテレスにはイセエビがウツボを襲って食べているように見えたのかもしれませんね。

ポンペイ展の食べ物に関する展示の解説と感想をまとめてみた(後編)

どうも、にゃこめしです。

2022年1月~12月の1年間、全国4会場を巡回している、特別展「ポンペイ」Special Exhibition POMPEII。京都会場へ見に行ってきました。解説と感想の後編です。

↓前編はこちらから

パン屋の店先

「炭化したパン」と同じ形状のパンがたくさん積み重なっています。よく見ると形は同じでも大きさが様々。黄色いマントの男性に手渡されているパンはちょうど「炭化したパン」と同じくらいの大きさ、カウンターの角に置かれているパンは座布団ほどの大きさに見えます。切れ目も12等分になっています。左上の籠には小さいパンがたくさん入っています。

パンを手渡している男性の上品な服装から、彼はパン屋ではないという説もあります。

市民にパンを配る高位公職者(エライ人)である、又はその仕事を請け負った業者であるとする説があります。

ほかにもパトロヌス(時代劇の親分さんのような存在)がクリエンティス(忠誠を誓う代わりに面倒を見てもらう人々)にパンを与えている場面である、という説もあります。
クリエンティスが朝の挨拶に行くと、パトロヌスからパンがもらえます。お金持ちで気前のいいパトロヌスなら、ワインやチーズや果物もカゴに一盛りもらえたそうです。f:id:nyakomeshi:20220627144946j:image

 

湯沸し器
この形状に懐かしさを感じる人も多いハズ。私もその世代です。
これはまさしく昭和の石油ストーブではないですか!
上にやかんを置く代わりに、鍋をはめ込むスペースがあります。ひっくり返す心配がなくて便利ですね。スープや煮物も作れます。
燃料はもちろん薪か炭だったのでしょう。f:id:nyakomeshi:20220627151347j:image葉形注口水差

ワインと水を混ぜておくのに使われました。
前編にも書きましたが、当時のワインは現代と違ってかなり甘い飲み物であり、アルコール度数も16~18度であったと考えられています。
蜂蜜やスパイスで味付けされていた事も。
前編に登場した饗宴用の大きなクラテルと違い、こちらは高さ19.5㎝と小型です。
一人~数人で飲む時用かもしれませんね。


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両把手付きオッラ(鍋)

弥生土器に取っ手をつけたような形状…
底が少し尖っているので炭火の上に直接置いて過熱する事が出来ました。この使い方だと、底の温度がすぐに上がるので素早い調理ができたそうです。
フライパンでサッと蒸し煮にするようなイメージでしょうか。
素早い調理をする場合、材料や水を入れすぎると火力が追い付かなくなるでしょうから、使うのは下から1/3くらいの高さまでかな…などと料理人目線で考えてしまいます。
もちろん、かまどに乗せてじっくり過熱する料理に使うこともできます。f:id:nyakomeshi:20220627151517j:image

 

カッカブス(深鍋)

いくつかの古代のレシピにある通り、シチューやソースなどの長時間調理に使われた、と図録にあります。
いわゆる、寸胴鍋と同じ使われ方ですね。f:id:nyakomeshi:20220627151532j:image

 

単把手付きガルム(魚醤)用小アンフォラ

ガルムとは古代ローマの魚醤です。
現在の調味料でいえば、能登のいしるや東北のしょっつる、タイのナンプラーベトナムニョクマムなどと同じような調味料です。
原料はイワシやサバがよく使われましたが、他にも様々な魚類や甲殻類などを原料にしたガルムがありました。ハーブやスパイスで味付けされたものもあったようです。
古代ローマの料理はガルムが多用されます。日本料理における醤油のような存在で、味付けの基礎を作るものでした。
独自の風味を持つ調味料ですから、一度ガルムを入れたアンフォラは、ワインや水などの他の物を入れる用途に使い回す事はできません。このアンフォラもガルム専用だったのでしょう。

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料理保温器

真ん中の穴から燃料をいれて、料理を保温します。
入れた燃料は炭とか焼石などでしょうか。
古代ローマは手食文化だったので、饗宴に熱々の料理が供されることはあまりなかったと考えられています。とはいえ、スープなどが供される場合はやはり、温かさを保つことが求められていたのですね。
料理人目線では、燃料の穴が真ん中だと洗いにくいし、底の方の料理も給仕しにくいな……と考えてしまいます。
しかし電気やガスなどがなかった時代、真ん中に熱源があった方が料理全体が均一な温度に保て、且つ冷めにくかったでしょうから、やはりこれが理にかなった形状なのでしょう。

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ネコとカモ

「ファウヌスの家」のモザイク画。細密さに驚きました。
活き活きとした表情で描かれた、子ネコが掴んでいるのは雌鶏。
羽も足も折りたたんだまま抵抗する様子がない雌鶏は、人間が既に絞めて、食材として保管されている物だということがよく分かります。
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棚の下段に保管されているのは二羽のカモ。
右側には口をつなげて縛ってある小魚。よく見ると、数種類の魚が十把ひとからげに縛ってあることが見て取れます。
下段真ん中は貝類。トゲのついた巻貝は、種類は分かりませんがアッキガイ科の貝類に似ているような気もします。ホタテ貝もしくはイタヤ貝、ハマグリのような貝も見えますね。f:id:nyakomeshi:20220627145410j:image
左下は脚を縛られた4羽の小鳥。図録によると、この鳥はズアオアトリという鳥です。
古代ローマのレシピ本には小鳥を使ったレシピがたくさん残っています。
私が調べたものでは、ウグイス、ニワムシクイ(ベッカフィーコ)、figpecker(メジロムシクイ他ウグイス科の小鳥の総称)などと翻訳されていました。
これらを使い分けていた、というよりかは小鳥類という扱いに近かったのではないかという印象です。
今でもフランスではズアオホオジロという小鳥が珍味とされ、密漁によって捕獲されています。

↓スズメも食べていた話はこちらから



イセエビとタコの戦い

このテーマは壁画の題材として好まれたようで、今回のポンペイ展で展示されていたもののほかにも「伊勢エビとタコの戦い」のモザイク画はいくつか存在します。f:id:nyakomeshi:20220627145451j:image

描かれている魚介類は種類も多様で、描写も正確です。古代ローマ人は新鮮な海の幸を存分に享受していたのだな、と食文化の豊かさを感じさせてくれます。

描かれているのは中央に取っ組み合いをする伊勢エビとタコ。その左上にウツボf:id:nyakomeshi:20220627151446j:image

イセエビとタコとウツボの関係は?何故このテーマの壁画が何枚も存在するのか

詳しくはこちら↓

右上はヨーロッパキダイ。後ろの水玉のエイのような謎の魚が気になります。f:id:nyakomeshi:20220627151500j:image

タコの右側にはネコザメに似たサメ類と、カナガシラのような魚。

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下には大きなスズキと、メバルのような魚、赤エビ。

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あごヒゲのあるヒメジ。f:id:nyakomeshi:20220627151717j:image

他にも、種類は分かりませんが様々な魚介類が描かれています。

↓ヒメジに関する話はこちらから


 

まとめと感想

ポンペイ展、当時の生活を生々しく、活き活きと感じさせてくれる展示の数々でした。
一つ一つ深堀しながら見ていくと、もう、古代ローマにタイムスリップした気分です。
このブログでは食べ物に関する展示のみ紹介しましたが、他にも美術的、歴史的価値のある展示物が山のようでした。

踊るファウヌスやアウグストゥスの胸像。
可愛らしい黒犬のモザイク画。
神々を描いた壁画や彫刻。

どれも素晴らしいものでした。

この機会を逃すと、この展示品たちにもう一生出会うことができないかもしれない、と思い、食い入るように鑑賞したので、気力体力ともにクタクタになりました。

今回は、自分の好きなポンペイの世界観に没頭したいので音声ガイドは借りませんでしたが、人気の声優さんがガイドを務めているとのこと。アニメや声優さんが好きな方には高評価らしいですね。とっつきにくさを感じている方にも親しみやすく感じられるかもしれません。


京都会場は7月2日まで、まだ行かれていない方は是非、お急ぎください。
この後は宮城、次に福岡と巡回展がおこなわれるようです、東北、九州の方々も是非。
古代ローマ好きの仲間が増えることを願ってやみません。

 

ポンペイ展の食べ物に関する展示の解説と感想をまとめてみた(前編)

どうも、にゃこめしです。

2022年1月~12月の1年間、全国4会場を巡回している、特別展「ポンペイ」Special Exhibition POMPEII。京都会場へ観に行ってきました。

展示内容はブロンズや大理石の像を始め、細密なモザイク画や壁画の数々。食器や装飾品。そして「炭化したパン」など食品を含む日用品など幅広い品々。いずれも約2000年前の物とは思えない技術の高さと保存状態の良さに驚きの連続でした。

ポンペイ展で見てきた展示品の中で食材に関する物を備忘録的にまとめてみたいと思います。展示品はいずれも写真撮影可能でした。ここに載せる写真は展示会場で撮った写真と、購入した図録を撮影したものとがあります。

バックス(ディオニソス)とヴェスヴィオ

バックス(ディオニソス)はワインの神様なのでブドウが一緒に描かれる事が多いのですが、この絵はブドウが衣装になってしまっています(笑)
足元にいる犬のような動物は実はヒョウで、こちらもバックスのアトリビュートとされています。
背後には噴火前のヴェスヴィオ山の姿が。今のように頂上が平らではありません。
山の斜面にはブドウ畑が広がっていました。

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萼型クラテル

クラテルとは水とワインを混ぜ合わせるための大きめの容器です。ワイングラスのように見えますが、高さ68cmのサイズです。
饗宴の際はクラテルを用いて、その場にふさわしい濃さにワインを希釈し、それぞれの盃に注ぎます。
現在のワインを水で薄めると美味しくありませんが、当時のワインは現代と違う物でした。かなり甘い飲み物であり、アルコール度数も16~18度だったと考えられています。
その為、ワインを薄めずに飲むことは大酒呑みで無作法とされました。

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仮面のあるパテラ

パテラは神々に献酒するための器です。
把手のついた物はちょっと珍しく、大抵は把手はなくて真ん中に凸部分のある平皿です。
ところが解説板及び図録には、宴会の前に手を清めるのに使われたと書かれています。そのような使い方を示す資料もあったのでしょうか…?もしそうだとしても、フィンガーボウルのような実用品ではなく、儀式的意味合いの強い物だったと思われます。
同じ解説板及び図録に、英語ではlibation bowl(献酒用ボウル)と書かれていました。
やはり献酒用か?疑問が残ります。f:id:nyakomeshi:20220626141647j:image

 

ワイン用のアンフォラ

思った以上に大きいです。高さ107cmとありますので、把手が胸の位置に来てしまいます。背の低い私には持ち上げる事が出来なさそうです。
先が尖っているので、地面に埋め込んだり、木枠にはめ込んだりして使われました。
底が平らな方が使いやすいじゃん、と思うのですが、古代から7世紀頃にわたって、かなり広い地域で先の尖ったアンフォラが発掘されています。やはり当時はこのほうが実用的だったのでしょうか。そういえば、縄文土器にも先の尖ったものがありましたね。
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ヒルのケーキ型

ヒル…といっても生きているアヒルの姿ではなく、アヒルの丸焼きの形をしています。饗宴の料理に意外性を求めるローマ人の姿が想像できます。

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目玉焼き器、あるいは丸パン焼き器

日本人なら、特に関西人なら「たこ焼き器!」と言いたくなるような形状です。大きさはたこ焼きより一回り大きめです。
まさか、ジャンボたこ焼き?f:id:nyakomeshi:20220626002624j:image


瓶とケース

これも既視感が…
アレです、宴会場で瓶ビールを一気に何本か運ぶためのやつ。発想が同じです。f:id:nyakomeshi:20220626002635j:image

 

 

雄鶏とカボチャ

女性実業家ユリア・フェリクスの家の壁画です。丸々と肥った雄鶏は良いとして、右下に描かれている物が何かが問題です。
なぜならカボチャはアメリカ大陸原産の野菜だからです。
英語の解説ではrootas and gourdとなっています。gourdはひょうたんや瓜やヘチマやゴーヤなどをひっくるめた、ウリ科の実の総称です。こちらは納得がいきます。
カボチャもウリ科の植物とはいえ、カボチャと訳してしまうのはこれで良いのでしょうか?

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果物のある静物

左側に描かれているのはプラム(桃)。枝に実る様子や内部の種が見える描写など、現代の図鑑でもありそうな構図です。
次に描かれているのはニンニクに見えるけどイチジク、黒っぽいのがナツメヤシ(デーツ)です。図録には言及されていませんでしたが、明らかにピーナッツ!と思われるモノも。ナツメヤシには金貨と銀貨が一枚ずつ差し込まれています。
ガラスのグラス類も繊細な輝きを放っており、当時の技術の高さがうかがえます。
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パンのある静物

今回のポンペイ展の展示品の目玉であった、「炭化したパン」の生前の姿がしのばれます。ふっくらして美味しそうです。パンの横にあるのはおそらく豆の入った容器、との事。
私はひよこ豆のスープかな、と思いました。
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炭化したパン

これ以上にに当時の食生活を我々に伝えてくれる物があるだろうか、と称えたくなります。ふんわりしたテクスチャー、八等分された切り目もそのまま。
2000年近い過去の遺物とはおもえない保存状態に、言葉を失うばかりです。
大きさは直径20cm、手頃なサイズ感です。一個で二食分くらいの量に思えます。
しかし、密度はわからないので、現代のパンよりずっしり食べごたえがあった可能性もありますね。
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炭化したイチジク

しっかりと形が残っています。
生のイチジクではなく、干しイチジクだったので、より保存状態がよかったそうです。f:id:nyakomeshi:20220626125116j:image

 

炭化した穀類

元が何の穀物だったのか…もはや見分けがつきませんね。古代ローマ料理本には野菜や豆と一緒に穀類を煮込んだ、おかゆのようなスープのレシピがあります。そんな料理を作る予定だったのかもしれませんね。f:id:nyakomeshi:20220626125514j:image

↓詳しくはこちら


炭化した干しぶどう

展示されていた干しブドウと、図録に載っていた干しブドウは別の物でした。
当時はかなりメジャーな食材であり、ポンペイのあちこちの台所から発見されたのでしょう。

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語りたいこと、疑問に思ったこと、覚えておきたいことなどが多すぎて、記事が長くなってしまいました。今回はここまで。

後編に続きます。

↓関連記事

 

 

ししごろしという豆の話

どうも、にゃこめしです。先日、「ししごろし」という豆を見つけました。
兵庫県佐用の道の駅で売られていたものです。小粒でつやつやの黒い豆です。
似たような豆はこれまで見たことがありません。興味がわいたので、即購入しました。

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「ししごろし」とネットで検索しても、あまり情報がありません。

私と同じく佐用の道の駅でししごろしを購入された方が、「猪もびっくりするほど美味しい豆」と書いていたブログがありました。
しかし、その他の情報は分かりません。

果たして、この「ししごろし」とはどんな豆なのでしょう。

犯人は現場に戻る‥‥ではありませんが、ヒントはちゃんと売り場にありました。

「ししごろし」の下に(黒千石)と書いてあります。ししごろしとは、黒千石大豆のこの地域での呼び名のようです。f:id:nyakomeshi:20220531151729j:image

黒千石大豆は「幻の黒千石」などのキャッチコピーで呼ばれています。

もともと北海道の在来種で、昔から人間が食べる他、飼料や緑肥用の作物として栽培されていたそうです。
ところが、普通の大豆より栽培が難しいため、1970年代以降は栽培されなくなりました。いつしか、黒千石大豆という品種そのものが絶滅したと思われていました。

ところが2002年、研究者の手によりわずかに生き残っていた黒千石大豆が再発見されます。50粒の種からもう一度、黒千石大豆をよみがえらせる挑戦が始まります。
発芽したのは50粒のうち28粒。
そこから紆余曲折を経て、黒千石大豆は見事に復活を遂げました。
今では北海道を中心に各地で生産・栽培されています。

普通の黒大豆よりイソフラボンポリフェノールの含有量が高いため、近年は健康食品として注目が集まっているようです。

私がこの「ししごろし」こと黒千石大豆を買ったのは兵庫県佐用です。
兵庫県といえば、丹波篠山市を中心に、丹波黒大豆の一大生産地。大粒の丹波黒大豆に名物として前面に押し出されている「もち大豆」。数々の味噌や醤油。
そして、北海道出身の「ししごろし」こと黒千石大豆まで栽培してしまう。
兵庫県佐用の地域は本当に豆に対する造詣が深い地域なのだな、と思います。

さて、この「ししごろし」どうやって食べるのかというと、豆ごはんがおすすめのようです。

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『黒千石大豆』で検索しても、必ず豆ごはんや炊き込みご飯が出てきます。
早速作っていきましょう。

豆はあらかじめ水に漬けておいても、漬けておかなくてもどちらでも良いです。
水に浸しておくと、ご飯となじみの良いふっくらとした豆に仕上がります。
浸しておかない場合は、プチプチとした食感の雑穀米のような仕上がりになります。
お好みの方で作ってみてください。

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今回私は、5時間ほど浸水させました。
漬けておいた水が鮮やかな紫色になっています。f:id:nyakomeshi:20220531152015j:image

漬けておいた水ごと炊飯器に入れてから水加減を合わせます。
既にほんのり紫色です。水加減、炊飯器の設定共に普通の白ご飯と同じで大丈夫でした。
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炊きあがりすぐは色ムラがあります。
さっくり混ぜ合わせてしばらく蒸らすと色が均一になりました。

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気になるお味はというと、
お赤飯のようでもあり、黒豆の香りもします。ひきわり大豆と一緒に炊いたご飯にも似ているような気がします。
しっかりとした豆の風味と塩味が相まって、しみじみとしたおいしさです。
十六穀米などの雑穀系が好きな人は、ハマる味だとおもいます。

まだまだ沢山あるので、黒米や麦とミックスして、オリジナルの健康ご飯を試してみるのも楽しそうです。
弁当やおにぎりにもぴったりでした!
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参考HP

北竜町ポータル

黒千石大豆・黒千石事業協同組合

https://portal.hokuryu.info/kurosengoku/

 

アピキウスのハーブ、ラヴィッジの話

古代ローマの美食家、アピキウス(アピシウス)の記したとされる『料理帖』。

そのレシピの中で、頻繁に使われるハーブがあります。

それは「ラヴィッジ」です。

  • 胡椒、ラヴィッジオレガノをすりつぶし、煮汁をかけてのばす
    (ヒメジの料理)
  • ラヴィッジをすりつぶし、リクァーメンで味付けして豆の上に流し込む
    (野菜スープ)
  • 乳鉢で胡椒、ラヴィッジをすりつぶし、葡萄酒と油を加える
    (オムレツのような卵料理)
  • 胡椒、ラヴィッジオレガノをすりつぶし、リクァーメンを振りかけ・・・
    (仔豚の料理)

魚、野菜、卵、肉・・・どんな食材のレシピにもラヴィッジが登場します。
これでは、全部同じ味になってしまうのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、現代の料理でも同じように「いつも出てくる食材」というのはあるものです。

たとえば和食なら、酒・みりん・砂糖・醤油がいつも出てきます。しかし、出来上がった料理はそれぞれ違うものとして食べています。すき焼きと肉じゃがは違うし、菜っ葉の炊いたんや筑前煮はそれぞれ別のものです。

洋風のレシピならいつも「塩・コショウ少々」などと書かれています。

外食すれば何にでもレモンが添えてあったり、パセリが添えてあったり、ネギがのっていたり。

おそらく、このような感覚で古代ローマ人ラヴィッジを使っていたのだと思います。

 

さて、このラヴィッジがどんな植物であったかというと、

セリ目、セリ科の多年草植物です。草丈は大きく育つと1.8m~2.5mにまで成長し、根元から何本も丈夫な茎をのばして葉をつけます。

標準和名は「ラベージ」。ほかにも「ラビッジ」「ロベージ」などと表記されることが多いようです。外国語の発音を無理やりカタカナで書くといろいろなバリエーションができてしまいますよね。

英語では「ラベージLovage」のほかに「ラブ・パセリLove parsley」という素敵な名前があります。イタリア語では「山のセロリ」と呼ばれているようです。

同じセリ科であるセロリやパセリによく似た風味のハーブだったのでしょう。
消毒や鎮咳作用など、薬用植物としての役割もあり、古くはヨーロッパ全土で栽培されてきたのですが、現在ではかなり限定された地域でのみ使われているようです。

もちろん、日本での知名度はありません。百貨店で探しても購入は難しそうです。

参考文献にしている『古代ローマの饗宴』という書籍のなかでも筆者は、

現在でもラヴィッジは薬草商に行けば多少困難でも見つけることができる(中略)
もっともラヴィッジの乾燥葉はもっぱら藁の香りがするだけだが…(中略)

新鮮なラヴィッジは今ではもう手に入らない

と記したうえで、パセリとセロリの葉を刻み合わせて使うことを提案している。

しかし、謎に満ちたハーブであるラヴィッジは本当にもう、手に入らないのでしょうか。

 

手に入れました!!

 

海外のハーブの種を輸入しているお店から、ラベージの種を買うことができました。f:id:nyakomeshi:20220406123458j:image

珍しいアイテムを手に入れられる、私ってAmazonって、本当にすごいですね。現代社会の情報と流通に感謝です。

種はこんな形状です。クミンやキャラウェイに似ています。

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種のままでも大変良い香りがしました。セロリのような芳香です。胸がすっとして、食欲がそそられます。

早速植えてみました。

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同じくアピキウスのレシピに頻繁に登場するハーブ、セイヴォリーも一緒に取り寄せて植えています。これで、古代ローマの食事より正確に再現できます。

成長が楽しみでなりません。
しかし、狭いベランダで2m以上に成長したらどうしよう・・・

 

↓アピキウスについて詳しく書いています

古代ローマ料理を実際に作ってみた際の記事です。レシピの材料にラヴィッジが登場します。

参考文献/HP

古代ローマの饗宴

エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社