にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

鮭の祟りと鮭供養の話

各地の鮭漁もピークを迎え、スーパーの店頭にも秋鮭の切身が並んでおります。

鮭は昔から日本人に馴染みの深い魚でした。

それ故、各地に鮭に関する民話や伝承の話が残っております。その中からいくつか、私が興味深く思ったものをご紹介したいと思います。
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はじめに

日本人に馴染みの深い生き物は色々な民話に登場します。

時には言葉を話したり、不思議な力をもったり、化けたりもします。

動物で言えば狐や狸。ほかには蟹とか、蝦蟇とか、蜘蛛とか。

鮭も例外ではありません。

鮭に関する伝承は驚く程たくさんあり、調べていてキリがありません。

 

鮭の大助

鮭の大助(オースケ)という大きな鮭の民話があります。

むかしむかし、山あいの村に暮らしていた男がおりました。その男が大鷲退治をすることになるのが話の前半部分です。

鮭が登場するのは話の後半部分で、男は大鷲を退治したのは良いけれど、帰り道が分からない状態になります。

途方にくれていると大助(オースケ)と呼ばれている大鮭が現れて、男を背中に乗せて海を渡り、川を上って男をもとの村に送り届けてくれました。元の村についたのは十月二十日の真夜中でした。

この民話は岩手県気仙郡に伝わる話です。それ以来、この村では十月二十日には御神酒やお供え物をして、鮭留め(網で川をせき止め、袋状の網に鮭を追い込む為の仕掛け)を数ヶ所あけて鮭が通れるようにしているそうです。

現在はどうなっているのかを調べようと思いましたが、今のところ分かりません。

 

同じ民話は山形県最上町にも伝わっています。細かな設定や登場人物(登場魚)にわずかな違いはありますが、同じ話と言っても差し支えないレベルだと思います。

最上川筋では十月二十日の「鮭の大助」の日以降でないと鮭漁が解禁にならなかったと伝えられています。(現在は違うようです)。

 

ところで、この鮭の大助は川を遡上する時に

「鮭の大助、今のぼる!鮭の大助、今のぼる!!」

と大声で叫びながら遡上する、という伝承も地域によってみられます。

真夜中に大声で叫びながら通過するだけでも恐ろしいのですが、その声を聞くと呪いにかけられてしまい、耳が聞こえなくなったり、家が没落したり、亡くなってしまったりする、というのです。

子分又は奥さん鮭の小助(コースケ)を連れて『オースケコースケ』というコンビを組んで遡上して来る場合もあります。

 

新潟県に伝わる民話では鮭の大助・小助(オースケコースケ)が遡上してくるのは11月15日。

漁師達がその日は鮭の祟りを恐れて漁を休む事にしていました。しかし、川にはたくさんの鮭が遡上しています。村の長者は欲に目がくらみと言ってその日も漁師達を働かせました。

不思議に鮭は一匹も掛からず、漁師達は怖がってみんな逃げてしまい、長者一人が取り残されました。そこへ

「鮭の大助・小助、いまのぼる!!」

その瞬間、長者は胸が張り裂けて亡くなってしまったといいます。

後味の悪いはなしが続きますが、もう一つ。

 

鮭の祟

千葉県、利根川の話です。

漁師の夫婦が鮭漁の準備をしながら蕎麦を食っていると、旅のお坊さんが現れました。夫婦はお坊さんに蕎麦をご馳走すると、お坊さんは「2、3日は漁をするのは止めたほうが良いだろう」と告げました。

夫婦は約束を破って次の日から漁を始めたら、ものすごい大漁。お祝いをしようと、捕れた中でも特別大きくて美味しそうな一匹の鮭を選び、その腹を裂きました。

中からは蕎麦が出てきました。

それから暫くして、漁師の妻は懐妊しましたが、産まれたのは顔中にイクラのような赤い斑点のある醜い女の子でした。それを見た漁師の妻は恐ろしくて死んでしまいました。

隠すように育てられたこの醜い娘は、やがて旅の占い師に恋をするも逃げられ、娘も死んでしまいます。

救いようのない結末でこの話は終わりです。

 

鮭の祟は怖いですね、恐ろしいですね。

 

でも鮭は食べたいですね。美味しいですね。冬を越すための貴重なタンパク源です。生活の糧です。生業です。鮭を取らなければ。

 

そうだ、供養をしよう。

 

鮭供養

鮭供養の風習は東日本各地に今も伝わっています。

その中の一つに鮭の千本供養があります。

 

山形県飽海郡秋田県にかほ市などの鮭漁が盛んな地域ではいつの時代からか、鮭1000匹の魂は人間一人分に相当すると伝えられてきました。
それ故、鮭が1000匹採れる毎に塔婆を立てたり、お経をあげたりして供養して来ました。

 

その伝統は現在でも形を変えつつ伝わっています。塔婆が石碑に変わるなどしつつも、漁協や生産組合などが地元のお寺と共に鮭供養を行います。
1000匹毎に行うのではなく、漁期の初めに豊漁祈願と共に供養祭が行われたり、漁期の終わりに供養祭が行われたりするようです。


新潟県の村上・岩船地域では11月11日の鮭の日に合わせて「鮭魂祭」が行われます。こちらは神社で神式の鮭供養です。

 

おわりに

神や妖怪は姿を潜めた現在。しかし、いかに世の中が発展しても人間は他の生き物の命を頂いてしか生きられません。

感謝の気持ちを忘れないようにしたいものです。

月並みな言葉でまとめてしまってすみません。

今日の賄いは秋鮭と舞茸のホイル焼き。鮭に感謝しつつ、いただきます。


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鮭に関する民話はとても多く、今回紹介しきれませんでした。アイヌの民話なども含めれば、膨大な数になりそうです。また機会があれば調べて紹介したいと思います。

 

参考文献

動植物供養と現世利益の信仰論
高木大祐 著  慶友社
参考HP
フジパン株式会社 民話の部屋
https://minwa.fujipan.co.jp/s/area/iwate_033/
https://minwa.fujipan.co.jp/s/area/niigata_019/
青空文庫 鮭の祟 田中貢太郎
底本:「日本の怪談(二)」河出文庫河出書房新社 1986(昭和61)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社 1970(昭和45)年初版発行
https://www.aozora.gr.jp/cards/000154/files/3675_11819.html
新潟県のHPより むらかみ・いわふね珍風景
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/murakami_kikaku/1320786092078.html