フランスでルジェ(rouget)と呼ばれる魚があります。名前から予想出来る通り、赤味がかった色が美しい魚で、フランス料理の高級食材です。
これはヒメジの仲間の
ストライプド・レッド・マレットという魚です。
(ちなみにrouget poissonで検索をかけると、様々な色合いのヒメジの画像が出てくるので、ヒメジ科の他の魚もルジェとして扱っているのかもしれません)
rouget grondin(カナガシラ)と区別するためにrouget barbetと呼ぶ事もあるようです。
少し古い本ですが、ルジェについてこんな面白いコラムを見つけたので、少し長いですが引用したいと思います。
“ルージェは美食を好む古代ローマ人つにとっては、豪華な食卓、宴会に欠かすことのできない魚でした。
風味ばかりでなく、その優雅なすがたと美しい色も賛美の対象となり、彼らはルージェを両手で包むようにして窒息させ、パープルから、バイオレット、さらにライトブルーへと刻々と微妙に変化する色合いを眺めて楽しみました。
食卓の上で薪を燃やし、透明なガラス器に入れたルージェをその上にかざします。そして、ルージェが熱せられて死んでいくと同時に、さまざまに色を変えていくのを、みんなで嘆声を発しながら見物するのです。
それは見て美しいスペクタクルであるばかりでなく、卓上で調理された新鮮なルージェを賞味するにも都合のいい方法だったわけですが、その美学はちょっぴり残酷にも感じられますね”
食卓のエスプリ フランス料理の本②魚介料理
辻 静雄 監修 講談社
昭和56年9月7日 第1刷発行
このコラムの内容が参考にしている歴史的資料が何であるかは分かりません。
『アピキウス』?プリニウスの『博物誌』?
それともタキトゥスやスエトニウス?
(ご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教授頂ければ幸いです。)
さらに、ここに書かれている通りに調理したとして、気になるのはウロコや内臓です。ヒメジのウロコは大きいし、胃の内容物は海底の海老や虫。
大変、食べにくい物になりそう…。
しかし、古代ローマ帝国でヒメジが食べられていた事は確かなようです。
紀元前3世紀ごろのモザイク画にも、ヒメジの仲間特有の顎ひげをもつ魚が描かれております。
ヒメジの仲間は下顎の先に、二股に分かれた顎ひげをもつのが特徴です。顎ひげは味覚や触覚で餌を探すための優れた感覚器なのだそうです。
↓こちらはヒメジ科ウミヒゴイ属のホウライヒメジ。顎ひげが見事です。参考までに。
ところで、日本ではルジェを使ったフランス料理を作るときには、流通量が安定しないヒメジに変わってイトヨリで代用する事も多いようです。赤味がかった皮目の色と柔らかい白身の食感が似ているためです。
さて、このルジェの料理ですが、三枚に卸してソテーやポワレにする事が多いです。
少し手の手の混んだ料理になると、ジャガイモを薄く桂剥きにし、さらに丸く型抜きしたものをウロコに見立ててルジェの身に貼り付け、フライパンでバター焼きにする料理も定番のようです。
ルジェは手に入らなかったので、よく似た魚としてヒメジ科ヒメジ属のヨメヒメジを使いました。
ヒメジは火を通しても柔らかく、クリーミーな白身です。サックリ焼けたジャガイモが対象的な歯ざわりを演出し、食感の対比が楽しめました。
ヒメジ/ルジェと古代ローマについてはこちらにも書いています!