にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

キリストと古代ローマのスズメの焼き鳥の話


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スズメの焼き鳥を食べたことがありますか?

私は二度、食べたことがあります。一度目はあの有名な、京都の伏見稲荷大社の参道近くで売られているもの。二度目は焼き鳥屋さんで(どちらも10年ほど前)。

羽毛を取られたスズメは悲しいほどに小さく、空を飛ぶためのその体は細くて華奢でした。もちろん、ニワトリのように部位ごとに捌く事などできませんから、全身そのままの形で串に刺さっておりました。タレに漬けてパリッと焼かれたスズメを骨ごと、頭からパリパリといただきます。

一口頬張ると、まずタレのコクと皮の香ばしさ、そして噛みしめる程にレバーのような骨髄の味がにじみ出てきました。

観光客(今はコロナでいませんが)の方々は可愛らしいスズメを食べてしまう事と、グロテスクな見た目に、強烈な印象を抱くようです。

 

しかし、スズメを食べるのは日本人だけではありません。
新約聖書の人々もスズメを食べていました。

(ヨーロッパ〜中東にはスズメPasser montanusとイエスズメPasser domesticusの2種が生息していますが、そのうちどちらの種かは不明です。上の絵はスズメPasser montanus。)

新約聖書の舞台となるのは、古代ローマ帝国統治下のユダヤ属州とその周辺です。現在の地名でいうとイスラエルとヨルダン西端の一部にあたります。
時代は西暦30年前後。古代ローマ帝国二代目皇帝ティベリウス(在位期間AC14~37年)の治世です。

エスが人々に教えを説いていると、道端でスズメが売られていました。

マタイによる福音書20・29
二羽の雀が1アサリオンで売られているではないか。だが、その一羽さえ、あなた方の父のお許しがなければ、地に落ちることはない。

なぜスズメが売られていたのかというと、食べるためです。スズメは貧しい人々でも手に入り、安く食べられる肉類でした。二羽セットでないと小銅貨一枚分にもならない、とるに足りないもの、という意味合いを含んでいます。

ルカによる福音書12・6
五羽の雀が2アサリオンで売られているではないか。だが、その一羽さえ、神がお忘れになるようなことはない。

スズメがさらにお安くなっております(笑)
マタイの福音書に登場するスズメより小さいから、一盛り5羽にしたのか?
閉店前のサービスタイムだったのか?
それとも4羽買ったらもう1羽オマケ付き?
ここでもスズメは、取るに足らないもの、価値の低いもののたとえとして登場します。
そして、神様はそのような一羽のスズメの事もちゃんと見守っていてくださるのだというお話なのだそうです。

 

ゴスペルの名曲で『His eyes on the sparrow 』という曲があります。映画『天使にラブソングを2』の中でも使われておりました。この曲の歌詞は新約聖書のこの部分を引用しています。

 

さて、気になるのは人々がこのスズメをどうやって食べたのかです。

先に述べた通り、スズメは小さすぎて部位ごとに捌く事などできません。スープに入れたとしても、骨が邪魔で食べづらいものであったでしょう。やはり、骨ごとパリッと焼くか、揚げるかの他に調理法は考えにくい食材です。

ここからは私の想像になります。
やはり新約聖書の人々は、スズメを焼き鳥にしていたのではないでしょうか。

古代ローマにはガルムという魚醤がありました。このガルムと蜂蜜を混ぜてタレを作って魚やヤマネなどの食材を焼き上げる、照り焼きのような調理法があったことも記録に残っています。

ガルムと蜂蜜のタレをスズメに塗って、炭火でパリッと焼き上げると…

そう、スズメの焼き鳥の完成です!

伏見稲荷大社の門前で売っている、スズメの焼き鳥に姿も味もそっくりになります。

もっとも、ユダヤ属州でローマ中心部と同じ調理法をしたかはわかりません。
そもそも貧しい人々の食材として売られていたのだから、贅沢な調味料を使わず、塩だけで仕上げていたかもしれませんね。

 

最後に、伏見稲荷大社の門前で売られていたスズメの焼き鳥の図を載せておきます。
おしりの部分だけをつなげて開く、独特のさばき方をされていました。

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最近では国産のスズメはまず市場に出回る事がありません。ほとんどが中国産の輸入スズメです。しかしそれも希少になりつつあります。今では伏見稲荷大社に行ってもスズメが売っている事はほとんどなく、代わりにウズラの焼き鳥を売っています。

スズメの焼き鳥のお値段は一羽で約1アサリオンでした。

 

参考文献/
新約聖書 新共同訳