にゃこめしの食材博物記

どうも、にゃこめしです。自称・おもしろ食材探検家で、面白い食材を探したり、普通の食材の面白い話を探したりするのが好きです。歴史・文化・生物学に興味があります。京都で小さな飲食店を共同経営している料理人。

古代ローマの美食家アピキウスの話

どうも、にゃこめしです。

私は古代ローマが好きで、素人ながらも趣味で歴史や食文化について調べたりしています。
古代ローマの食文化を調べる時に、絶対に名前が出てくる人物がいます。

それは、アピキウス。(アピシウスと表記する事も)。数々の逸話が残っている、古代ローマの美食家です。

アピキウスは謎に満ちた人物で、残っている逸話のどれが本当にあったことなのかも今となっては分かりません。

アピキウスの名は紀元前80年頃から記録に現れます。紀元後1世紀、2世紀の記録にも登場し、4世紀頃書かれた『料理書』の作者であるとも言われています。

その為、何人かの美食家や料理人のエピソードがまるで一人の美食家アピキウスの物語のように混ざり合って、今日に伝えられているのではないか、と言われています。

そんなアピキウスについて書いてみたいと思います。

紀元前のアピキウス

紀元前一世紀のギリシャの哲学者、ポセイドニオスが残した著作の一部に、アピキウスと呼ばれる人物が登場します。

記録によれば紀元前80年頃、アピキウスは日夜派手で豪華な宴会を開き、美食家として名が知られるようになりました。

 

紀元一世紀ごろのアピキウス

私の調べ方に偏りがあるせいかもしれませんが、一番記録が多く残っているのはこの時代のアピキウスだと思われます。タキトゥスセネカ、大プリニウスによる記録が今日まで残されています。

名前はマルクス・ガウィウス・アピキウス(Marcus Gavius Apicius)。紀元後一世紀、アウグストゥス帝~ティベリウス帝の時代を生きた人物と言われています。

アピキウスは裕福な貴族で、金に糸目をつけない美食家でした。

古代ローマの政治家であり、優れた哲学者であったセネカはアピキウスについて次のように書きのこしています。

この人物は料理術の教師となりその教えで一世を風靡したのであった。

ところで、このアピキウスの末路については、知っておいて損はありません。この男は、調理場(で調理される宴会のごちそう)のために、一億セルテルティウスもの金をつぎ込みました。そして、毎回の宴会に、皇帝の恩賞金とか、カピトリウムの国庫に収められたばく大な税金に匹敵する金を、食い尽くしたのです。

その結果、彼は借金で首が回らなくなり、そのときはじめて、しかたなく自分の帳簿を調べてみました。計算すると、手元に残る額は一千万セルテルティウスでした。

すると彼は、一千万セルテルティウスで生活すれば最悪の飢餓に苦しみながら生きることになるといわんばかりに、毒を飲んで命を絶ったのです。

(中略)

この最後の飲み物は、これほど心がねじくれた人間にとっては、最も健康によいものでした。

セネカはアピキウスについてとても批判的な意見を持っていたようです。

質素を旨とし、自制心や忍耐力が大切だと説く、ストア派の哲学者であったセネカ。彼にとって、アピキウスの贅沢ぶりは正反対の価値観であり、許しがたいものだったのかもしれません。

セネカが書いたアピキウスのエピソードは他にもこのようなものがあります。


皇帝ティベリウスとヒメジの話 - にゃこめしの食材博物記

セネカより少し後の時代の歴史家タキトゥスも「年代記」の中で

金持ちの放蕩者アピキウス

とアピキウスの存在に言及しています。

 

また、博物学者の大プリニウスもアピキウスの存在に言及しています。

 

紀元二世紀ごろのアピキウス

紀元1世紀頃の記録に現れていたアピキウス。

ですがなんと、突如として2世紀頃の記録にも登場します。

ギリシャの詩人アテナイオスの記録によると、113年~115年頃、アピキウスは皇帝トラヤヌスに牡蠣を送ったと記されています。

勿論、ティベリウス帝の時代に毒を飲んだアピキウスとは別人です。

 

アピキウスの料理書

「アピキウスの料理書」は1世紀や2世紀のアピキウスが書いたものではありません。

  • 4世紀頃の世俗ラテン語で書かれている
  • 紀元2世紀より後の人物の名前をつけたメニューがある
  • それより以前はアピキウスの「料理書」について言及されていない

などの理由から4世紀末に編纂された物だと言われています。

印刷技術のない時代の話ですから、写本で伝えられてきました。ところが写本に写本を重ねると、間違いや写し漏れ、余計な付け加えや誤訳…。伝言ゲームの如く内容が変化していきます。

今日伝わっている「アピキウスの料理書」は原点とは随分違うものになっているようです。

しかし、依然として古代ローマの食生活を知る大きな手がかりになる事は間違いありません。

 

終わりに

古代のロマンを感じる「アピキウスの料理書」。日本語版の完訳は手に入れる事ができていませんが、一部が紹介されている本は私の手元にあります。

英語の本なら、電子書籍で安く読めるようです。私は英語があまり出来ないので、相当頑張らねばなりませんが…(笑)

 

私は金持ちの貴族ではないので、高い材料は手に入りませんが、できる範囲でいろいろ試作してみたいと思います。

古代ローマの饗宴の一部を垣間見る事が出来るかもしれません。

 

参考文献/参考HP

古代ローマの饗宴
エウジェニア・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社

 

年代記
タキトゥス著 国原吉之助訳 岩波文庫

 

人生の短さについて 他2篇

セネカ著 中澤務訳 光文社古典新訳文庫

 

おいしい古代ローマ物語 アピキウスの料理帖
上田和子著 原書房

 

Wikipediaよりアピキウス(紀元前一世紀の人物)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%94%E3%82%AD%E3%82%A6%E3%82%B9_(%E7%B4%80%E5%85%83%E5%89%8D1%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%81%AE%E4%BA%BA%E7%89%A9)