どうも、にゃこめしです。
2022年1月~12月の1年間、全国4会場を巡回している、特別展「ポンペイ」Special Exhibition POMPEII。京都会場へ見に行ってきました。解説と感想の後編です。
↓前編はこちらから
- パン屋の店先
- 湯沸し器
- この形状に懐かしさを感じる人も多いハズ。私もその世代です。これはまさしく昭和の石油ストーブではないですか!上にやかんを置く代わりに、鍋をはめ込むスペースがあります。ひっくり返す心配がなくて便利ですね。スープや煮物も作れます。燃料はもちろん薪か炭だったのでしょう。三葉形注口水差
- 両把手付きオッラ(鍋)
- カッカブス(深鍋)
- 単把手付きガルム(魚醤)用小アンフォラ
- 料理保温器
- ネコとカモ
- イセエビとタコの戦い
- まとめと感想
パン屋の店先
「炭化したパン」と同じ形状のパンがたくさん積み重なっています。よく見ると形は同じでも大きさが様々。黄色いマントの男性に手渡されているパンはちょうど「炭化したパン」と同じくらいの大きさ、カウンターの角に置かれているパンは座布団ほどの大きさに見えます。切れ目も12等分になっています。左上の籠には小さいパンがたくさん入っています。
パンを手渡している男性の上品な服装から、彼はパン屋ではないという説もあります。
市民にパンを配る高位公職者(エライ人)である、又はその仕事を請け負った業者であるとする説があります。
ほかにもパトロヌス(時代劇の親分さんのような存在)がクリエンティス(忠誠を誓う代わりに面倒を見てもらう人々)にパンを与えている場面である、という説もあります。
クリエンティスが朝の挨拶に行くと、パトロヌスからパンがもらえます。お金持ちで気前のいいパトロヌスなら、ワインやチーズや果物もカゴに一盛りもらえたそうです。
湯沸し器
この形状に懐かしさを感じる人も多いハズ。私もその世代です。
これはまさしく昭和の石油ストーブではないですか!
上にやかんを置く代わりに、鍋をはめ込むスペースがあります。ひっくり返す心配がなくて便利ですね。スープや煮物も作れます。
燃料はもちろん薪か炭だったのでしょう。三葉形注口水差
ワインと水を混ぜておくのに使われました。
前編にも書きましたが、当時のワインは現代と違ってかなり甘い飲み物であり、アルコール度数も16~18度であったと考えられています。
蜂蜜やスパイスで味付けされていた事も。
前編に登場した饗宴用の大きなクラテルと違い、こちらは高さ19.5㎝と小型です。
一人~数人で飲む時用かもしれませんね。
両把手付きオッラ(鍋)
弥生土器に取っ手をつけたような形状…
底が少し尖っているので炭火の上に直接置いて過熱する事が出来ました。この使い方だと、底の温度がすぐに上がるので素早い調理ができたそうです。
フライパンでサッと蒸し煮にするようなイメージでしょうか。
素早い調理をする場合、材料や水を入れすぎると火力が追い付かなくなるでしょうから、使うのは下から1/3くらいの高さまでかな…などと料理人目線で考えてしまいます。
もちろん、かまどに乗せてじっくり過熱する料理に使うこともできます。
カッカブス(深鍋)
いくつかの古代のレシピにある通り、シチューやソースなどの長時間調理に使われた、と図録にあります。
いわゆる、寸胴鍋と同じ使われ方ですね。
単把手付きガルム(魚醤)用小アンフォラ
ガルムとは古代ローマの魚醤です。
現在の調味料でいえば、能登のいしるや東北のしょっつる、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムなどと同じような調味料です。
原料はイワシやサバがよく使われましたが、他にも様々な魚類や甲殻類などを原料にしたガルムがありました。ハーブやスパイスで味付けされたものもあったようです。
古代ローマの料理はガルムが多用されます。日本料理における醤油のような存在で、味付けの基礎を作るものでした。
独自の風味を持つ調味料ですから、一度ガルムを入れたアンフォラは、ワインや水などの他の物を入れる用途に使い回す事はできません。このアンフォラもガルム専用だったのでしょう。
料理保温器
真ん中の穴から燃料をいれて、料理を保温します。
入れた燃料は炭とか焼石などでしょうか。
古代ローマは手食文化だったので、饗宴に熱々の料理が供されることはあまりなかったと考えられています。とはいえ、スープなどが供される場合はやはり、温かさを保つことが求められていたのですね。
料理人目線では、燃料の穴が真ん中だと洗いにくいし、底の方の料理も給仕しにくいな……と考えてしまいます。
しかし電気やガスなどがなかった時代、真ん中に熱源があった方が料理全体が均一な温度に保て、且つ冷めにくかったでしょうから、やはりこれが理にかなった形状なのでしょう。
ネコとカモ
「ファウヌスの家」のモザイク画。細密さに驚きました。
活き活きとした表情で描かれた、子ネコが掴んでいるのは雌鶏。
羽も足も折りたたんだまま抵抗する様子がない雌鶏は、人間が既に絞めて、食材として保管されている物だということがよく分かります。
棚の下段に保管されているのは二羽のカモ。
右側には口をつなげて縛ってある小魚。よく見ると、数種類の魚が十把ひとからげに縛ってあることが見て取れます。
下段真ん中は貝類。トゲのついた巻貝は、種類は分かりませんがアッキガイ科の貝類に似ているような気もします。ホタテ貝もしくはイタヤ貝、ハマグリのような貝も見えますね。
左下は脚を縛られた4羽の小鳥。図録によると、この鳥はズアオアトリという鳥です。
古代ローマのレシピ本には小鳥を使ったレシピがたくさん残っています。
私が調べたものでは、ウグイス、ニワムシクイ(ベッカフィーコ)、figpecker(メジロムシクイ他ウグイス科の小鳥の総称)などと翻訳されていました。
これらを使い分けていた、というよりかは小鳥類という扱いに近かったのではないかという印象です。
今でもフランスではズアオホオジロという小鳥が珍味とされ、密漁によって捕獲されています。
↓スズメも食べていた話はこちらから
イセエビとタコの戦い
このテーマは壁画の題材として好まれたようで、今回のポンペイ展で展示されていたもののほかにも「伊勢エビとタコの戦い」のモザイク画はいくつか存在します。
描かれている魚介類は種類も多様で、描写も正確です。古代ローマ人は新鮮な海の幸を存分に享受していたのだな、と食文化の豊かさを感じさせてくれます。
描かれているのは中央に取っ組み合いをする伊勢エビとタコ。その左上にウツボ。
イセエビとタコとウツボの関係は?何故このテーマの壁画が何枚も存在するのか
詳しくはこちら↓
右上はヨーロッパキダイ。後ろの水玉のエイのような謎の魚が気になります。
タコの右側にはネコザメに似たサメ類と、カナガシラのような魚。
下には大きなスズキと、メバルのような魚、赤エビ。
あごヒゲのあるヒメジ。
他にも、種類は分かりませんが様々な魚介類が描かれています。
↓ヒメジに関する話はこちらから
まとめと感想
ポンペイ展、当時の生活を生々しく、活き活きと感じさせてくれる展示の数々でした。
一つ一つ深堀しながら見ていくと、もう、古代ローマにタイムスリップした気分です。
このブログでは食べ物に関する展示のみ紹介しましたが、他にも美術的、歴史的価値のある展示物が山のようでした。
踊るファウヌスやアウグストゥスの胸像。
可愛らしい黒犬のモザイク画。
神々を描いた壁画や彫刻。
どれも素晴らしいものでした。
この機会を逃すと、この展示品たちにもう一生出会うことができないかもしれない、と思い、食い入るように鑑賞したので、気力体力ともにクタクタになりました。
今回は、自分の好きなポンペイの世界観に没頭したいので音声ガイドは借りませんでしたが、人気の声優さんがガイドを務めているとのこと。アニメや声優さんが好きな方には高評価らしいですね。とっつきにくさを感じている方にも親しみやすく感じられるかもしれません。
京都会場は7月2日まで、まだ行かれていない方は是非、お急ぎください。
この後は宮城、次に福岡と巡回展がおこなわれるようです、東北、九州の方々も是非。
古代ローマ好きの仲間が増えることを願ってやみません。