前回までの記事で古代ローマの謎多き植物シルフィウムやそこから取り出した薬で調味料のラーセルについて説明してきました。
今回は古代ローマで使われ、現在でも手に入る調味料パルティア産のラーセルをたっぷり使った鶏料理を作りましょう。
パルティアにこの料理があったのかは、パルティア側の資料が残っていないので分かりません。しかし、パルティアはラーセルの産地だった為、ローマ人達はこの料理をパルティア風の鶏料理と呼んでいたようです。
なお、参考文献である古代ローマのレシピ集、アピキウスの『料理書』には材料の分量も、詳しい調理手順も書かれていません。料理する人によって少しづつ再現される料理が変わってきます。
このブログでは私が作るとどうなったのか、という視点でお読み頂ければと思います。
なお、手に入りにくい材料は身近なもので代用しております。
材料
鶏モモ肉 一枚(約350g)
セロリ 10g
キャラウェイ 1g
胡椒 少々
しょっつる(他の魚醤でもよい) 小さじ1
赤ワイン 50㏄
ヒング又はアサフェティダ(=ラーセル) 小さじ1
飾り用フェンネルの葉 少々(無くてもよい、ネギやパクチーなどでも可)
1 .鶏モモ肉を3~4cm角の角切りにする
参考文献には「鶏を尻から開き」とありますが、さばくのが面倒なので鶏モモ肉を使用しています。「小さく角型にまとめ形を整える」と書かれている部分は研究者によって解釈が分かれます。鶏を四角い板の上で形を整える、とする研究者もいるようですが、どちらにせよ、どんな状態かよく分かりません。
今回は小さく角型に整えるの部分は、角切りにするという解釈で作ってみます。
2.セロリ10gをみじん切りにしてすり鉢に入れ、キャラウェイ1gとコショウ少々と一緒にすり潰す
参考文献に書かれている「ラヴッィジ」というのはラベージ、別名山のセロリと呼ばれるハーブです。今回はセロリの葉で代用しています。
3.2ですり潰したハーブにしょっつる小さじ1と赤ワイン50㏄を加え、混ぜる
参考文献の「リクァーメン」は古代ローマの魚醤です。今回はしょっつるで代用しています。
4.小さじ1杯のヒングにぬるま湯を100cc加え、よく混ぜて溶かす
さあ、今回の主役であるヒング、つまりパルティア産ラーセルの登場です。ラーセルは普段は隠し味として耳かき1杯程度しか使わないのですが、今回はたっぷり使います。
お湯に溶かすとすごい香りがします。
玉ねぎのような鮮烈な香りの奥に、いりこだしのような深く強い香りも感じます。
5.鍋に鶏肉を入れ、3で混ぜておいたハーブと調味料と、4のお湯で溶いたヒングを回しかけ、強火で加熱する
鶏肉の臭みが出ないように、最初は強火で一気に煮立たせましょう。
6.全体が沸騰したらアクを取り、中火にして10分程煮込む
7.鶏肉に火が通ったら仕上げに胡椒をふり、飾り用のハーブをのせる
これで完成です。早速試食してみましょう。
ラーセルたっぷりのスープはとても味わい深くて美味しいです。ダシやコンソメなどを使わずに煮込んだ料理なのにしっかりとダシの旨味を感じます。
鶏肉から旨味が出たのもありますが、ラーセルのおかげで玉ねぎやいりこだしを使ったかのような鮮烈かつ深みのあるスープに仕上がっています。
鶏肉はラーセルやワインの効果でふっくら柔らかく仕上がりました。
添えてあるパンにもワインにも、まぁ、そこそこ合うのですが、個人的にはご飯が欲しくなってしまいます。
ラーセルがダシと玉ねぎの風味で、リクァーメンがお醤油のかわりと考えれば、これはもう卵のない親子丼のようなものです。
ローマ人の好物である麦のお粥にも合いそうな味ですが、白いご飯が欲しくなるのは我々平たい顔族の悲しい習性なのかも知れません。
今回は古代ローマでも盛んに用いられたパルティア産ラーセルの味を堪能できました。それにしても、もっと美味しかったというキュレナイカのシルフィウムはどんな味だったのでしょうか。歴史の謎とロマンは尽きませんね。