にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

古代ローマと豚(3)…肉加工品ソーセージ、ハム、ベーコン

前回、前々回に引き続き豚と古代ローマの食文化の切っても切れない関係についてです。今回は豚肉の加工品に焦点を当てて調べた事をご紹介したいと思います。

肉の加工品がいつの時代からあるのかははっきりとしていません。人類が食料の保存を考えて塩漬けや燻製等の技術を編み出したのは太古の昔の事でした。

古代ローマの時代にはハムやベーコン、ソーセージなど様々な肉の加工品がありました。
饗宴のメニューでは“豚肉のハム”や“ベーコンとササゲ”などの美味しそうな記述が残っています。

共和制ローマの政治家、大カトーは著書『農業論』にハムの作り方を書いています。

“樽の底に塩を敷き、豚の腿肉の皮付きの方を下にしておく。この上に肉が隠れるまで塩を振り、次々に樽が一杯になるまで腿肉と塩を交互に入れる。5日目に取り出し、樽底に新しい塩を敷き、今度は皮付きの方を上にして、腿肉と塩を交互に入れる。12日目に取り出し、水気を除き、2日間空気にさらす。3日目には、海綿で拭いて油を塗り、2日間燻製する。3日目に油と酢を塗り、肉保存室に入れる”

カトーは神々に捧げる儀式にベーコンを捧げたという記録も残しています。

マルス・シルウァーヌスの日の昼間、森の中で3ポンドのスペルト(小麦)、1ポンドのベーコン、4.5ポンドの肉の切り身、1.5リットルのワインを生贄として捧げる。その肉を深鍋に入れてワインを注ぐ(中略)聖なる儀式が終わったら、すぐにその場で一切のものが食べ尽くされる”

何だか美味しそうな儀式ですね。ちなみに女性は参加できないそうです。

肉の加工品の中でも古代ローマで特に種類が多かったのはソーセージです。古代ギリシアでもソーセージに関する記録が散見される事から、ギリシア文化の影響が強かったためといわれています。

ソーセージの語源は、一説にはラテン語で塩漬けを意味するサルススSalsusであったといわれています(諸説あり)。

しかし、古代ローマではソーセージひとまとめではなく、その種類ごとに呼び分けていたようです。それぞれ列挙してみると、

ラテン語で詰めるという意味のfarcireファルキレという言葉から生まれたfarciminaファルキミナという腸詰め。
・小腸を使用したボテルスbotellusという小さめのソーセージ
ルカニアLucania地方がルーツのソーセージ、ルカニカLucanica
・腸ではなく、腹膜又は網脂omentumで包んだソーセージomentataオメンタタ
ラテン語で切り刻むという動詞insecareインセカレから派生した挽肉・すり身料理全般を指すイシキアisicia

などです。
イシキアには豚肉以外にも鶏肉で作るものやヤリイカやエビ、貝で作るものもあります。こちらも美味しそうですね。
古代ローマの人々は肉や香辛料を何かに詰める料理が大好きだったようです。

以前こちらの記事↓で再現したヤマネ料理も、ヤマネの中に豚挽肉を詰めるという料理でしたね。

次回の記事ではそんな、古代ローマ人の歪んだ愛情と少しの狂気を詰め込んだ豚料理を作っていきたいと思います。

参考文献/

『アピーキウス・古代ローマの料理書』
ミュラ・ヨコタ=宣子訳 三省堂

古代ローマの食卓』
パトリック・ファース著 目羅公和訳 東洋書林

『豚肉の歴史』
キャサリン・M・ロジャー著 伊藤 綺訳 原書房

『ソーセージの歴史』
ゲイリー・アレン著 伊藤 綺訳 原書房