前回の記事では古代ローマの博物学者プリニウスの生涯を紹介しました。
今回はプリニウスの人物像と、その個性的な生活ぶりがわかるエピソードを紹介していきます。
今日では博物学者として知られるプリニウスですが、彼は専業の学者ではなく、忙しい政務や軍務の側ら大量の書物を読み、執筆しました。
一体どうやって時間を捻出していたのか気になりますね。
甥の小プリニウスの書簡にはプリニウスの驚くべき生活の様子が記録されています。
プリニウスは睡眠時間が短くて済む人でした。
夜の長い冬の間は、研究の時間を長くとるために真夜中に起きて勉強を始めました。
遅くとも2時半頃、早い日には夜の23時過ぎに起きたそうです。
そこから夜通し研究の時間にあて、そして夜明け前に皇帝ウェスパシアヌスを訪問し、昼間は職務につきました。
睡眠不足が気になるところですが、プリニウスは仕事中にたびたび居眠りをしては、またすぐさめて活動していたそうです。
昼間の時間が長い夏の間は少しでも仕事の暇があれば研究にあてました。
プリニウスは常に自分の側に本と書き板をもった速記者をつれており、本を読ませつつ覚え書きや抜粋をつくったそうです。
彼は「何もとりえのないほど悪い本などはない」と言い様々な本から情報を抜き出し、整理し、編集しました。
昼頃になると冷たい風呂に入り、少し何かを食べ、短い睡眠をとりました。
そして昼寝から目覚めるとまるで新しい一日が始まったかのように仕事を始め、夕食まで続けたそうです。
もちろん、プリニウスは食事の時間も無駄にしません。
日中の食事は軽く、簡単に済ませました。
夕食のときは朗読者に本を読ませ、速記者に覚え書きを作らせつつ食事をとります。
ある時、プリニウスの友人の一人が朗読者に間違って発音したところまで戻ってもう一度読むようにと言ったことがありました。その時のことを小プリニウスはこう記録しています。
“「わからなかったのか」と伯父はいいました。
その友達はわかっていたことを認めました。
伯父は「それならなぜ、もとへ戻らせるのだ。君が邪魔して、少なくとも十行は損をした」と言いました。これほどまでに時間の節約に心をくだいたのです。”
そんなプリニウスですから、夕食の時も長居することなく食事が終わるとさっさと席を立ったようです。
“夏にはまだ明るいうちに食事から立ち上がり、冬には夜になり始めるとすぐ立ち上がりました。”
もちろん夕食後は自身の研究の仕事にあてる時間です。
そんなプリニウスが仕事を中断してリラックスする時間は入浴中のときだけでした。
ただし、
“この入浴というのは実際に湯につかっている時の事を意味します。
というのは体をこすられたり、乾かされているときは、本を読ませたり、書き取りをさせたりしたからです”
だそうです。風呂場でのドタバタが目に浮かぶようですね。
さらにプリニウスは移動の時間も無駄にしませんでした。
移動の際は椅子に座ったまま運ばれるのが常だったそうです。
冬にはどんなひどい天候でも勉強する時間を失わないようにするために両手を長い袖で覆いました。
“私(小プリニウス)はぶらぶら歩いていてどんなに叱られたかを思い出します。彼によればそのように時間を浪費してはいけなかったのです、というのは、彼は、勉強に費やされた時間でなければすべて時間の浪費だと思ったのです。彼が、これらすべての本を完成できたのは、この勤勉さゆえでした。”
プリニウスは驚くべき体力と精神力をもって執筆していたことがよく分かります。
この上なく勤勉で情熱的な研究者だと尊敬の念を覚えるとともに、愛すべき変人と感じてしまうのは、私だけではないはずですよね…?
さて、このブログのテーマである、食べ物の話に移りましょう。
プリニウスが何を食べたかという記録は残念ながら残されておりません。
しかし、甥の小プリニウスの為の饗宴のお品書きは現在まで残っているのです。
それは次のようなものです。
前菜…サラダ、カタツムリ三個、固ゆで卵二個
主菜…粥、焼きズッキーニ※のソース添え、野生の花の球根の酢漬け
デザート…ムルスム(蜜酒)アイス、新鮮な果実
古き良きローマの伝統に基づいた、何とも素朴で質素な献立です。
今回の記事は、ほとんど小プリニウスの記録から抜粋したものです。感謝の気持ちを表すために次回はこの中から一品作りたいと思います。
(※翻訳の都合上ズッキーニとなっているが、ズッキーニはアメリカ大陸原産の植物の為、古代ローマには無い。これはククルビタという食用ヒョウタンの一種)