再現!古代ローマ料理のコーナーです。
前回までの記事で博物学者プリニウスと著書『博物誌』について書きました。
プリニウス自身は同時代の美食家達のように食道楽にはしる人物ではありませんでした。しかし、食材に興味をもたなかったわけではありません。『博物誌』には食材となる生き物の利用方法や、人間との関わりがたくさん記述されています。
例えば『博物誌』におけるマグロの記述はこうです。
“マグロはいくつかに切り裂かれる。そして首と腹が美味とされる。新鮮であれば喉もそうだ。マグロの他の部分全部が筋肉もなにもくるめて塩漬けにして保存される。その(塩漬けの)切り身は樫の木片に似ているのでメランドリアと呼ばれる。その(塩漬けの)切り身でいちばんなのは尾に接する部分だ。それは脂がないから。もっとも珍重されるのは喉に接する部分だ。”
古代ローマではマグロの脂ののった部分が好まれていた事、対照的に塩漬けの保存食にするには脂のない部位が良質だとされていたことがよくわかります。
古代ローマのマグロ料理はどんな味だったのか気になりますね。
早速作ってみましょう。
レシピの参考文献であるアピキウスの料理書には材料も、詳しい調理手順も書かれていません。作る人によって再現される料理が変わってきます。
ここから先は私が作るとどうなるのかという視点でご覧いただければと思います。
材料
マグロ サク1本(150g)
小麦粉 5g
「 玉ねぎ 150g(小1個)
レーズン 10g
コリアンダー(粉末) 小さじ1/2
タイム(粉末) 小さじ1/2
A クミン(粉末) 小さじ1/2
コショウ 少々
ワインビネガー 大さじ1
蜂蜜 大さじ1
赤ワイン 100ml
L ヌクマム 大さじ1
(魚醤なら何でも良いです。商品によって塩分量が違いますので調節して下さい。)
作り方
まずはマグロに軽く塩をふり、下味をつけておきます。
下味を馴染ませている間にソースを作りましょう。
タマネギは粗めのみじん切りにします。レーズンも細かく刻んでおきます。
鍋にオリーブオイルをたっぷりと注いだらタマネギを炒めます。
しんなりしてきたら赤ワイン100mlを注ぎ、煮立ててアルコールをとばしながらAの材料をすべて投入します。全て混ぜ終わったら、一旦火を止めましょう。
小麦粉5gを水80mlで溶いて、水溶き小麦粉を作り、鍋に入れます。
木べらでよくかき混ぜながら弱火で2分程加熱します。小麦粉に火が通り、とろみがついたらソースの完成です。
肝心のマグロの方ですが、どう調理したのか記録がないので分かりません。
料理書の次の項目は「マグロの水煮に用いるソース」となっていますので、茹でる以外の調理法を想定していたのだと思います。炭火で炙ったりオーブンで焼いたりしたのかもしれませんが、想像するしかありません。
今回はオリーブオイルをひいたフライパンでさっとソテーしてみたいと思います。
強火で全ての面をサッと焼き、後は火を止めてフタをして2~3分、余熱で火を通します。
(古代ローマに魚を生食する文化はありませんでしたが、中をレアに仕上げた方が日本人の口には合うかもしれません。お好みで調節して下さい)
お皿に作っておいたソースを盛りつけ、好みの大きさに切り分けたマグロを並べたら完成です。
さあ、試食してみましょう!
ソースはワインやビネガーの酸味と、タマネギや蜂蜜の甘み、そして魚醤の塩分が加わってとても濃厚な味に仕上がりました。味のバランスでいうと甘酢餡やドミグラスソースのような甘くてしょっぱい、濃厚な感じです。
クミンやタイムなどのハーブが良いアクセントとなり、食欲をそそります。
マグロはしっとり柔らかく焼き上げる事ができました。ソースとの相性もバッチリです。
しっかりと食べ応えがあり、小骨もなく食べやすいので、これなら忙しいプリニウスにも気に入ってもらえるかもしれません。