私はいろいろな国、地域、時代の食文化を研究しているのですが、その中でも特に力を入れているのが古代ローマの食事と文化です。
これまでに文献をもとに作って試食した古代ローマの料理の数々はブログやYoutubeで発信したりしているのですが、ここで一挙にまとめて公開してみたいと思います。
- アスパラガスのパティナ
- 大エビの古代ローマ風
- ウズラで代用して再現した古代ローマのヤマネ料理
- 古代ローマの調味料ガルム
- そら豆のウィテリウス風
- 古代ローマの麦のお粥
- 古代ローマの麦粥にかけて食べる豚肉のワインソース
アスパラガスのパティナ
パティナとは平皿や平鍋の意味です。
アスパラガスは古代ローマでも好まれた野菜で、アスパラガスが描かれたモザイク画なども残っています。アスパラガスをハーブや魚醤と一緒にすり混ぜ、卵と混ぜてオーブンでふんわりと焼き上げた料理です。
詳しいレシピや解説はこちらの記事からご覧頂けます。
大エビの古代ローマ風
古代ローマの美食家アピキウスは大きなエビが獲れるという噂を聞いて、アフリカのリビア属州まではるばる船で旅をしたといわれています。しかも、リビアのエビが期待したほど大きくなかったと気づいたアピキウスは陸にあがることもなく、そのままローマに引き返してしまったのだとか。
そんな美食家アピキウスの名がついた『アピキウスの料理書』より、エビのソースを資料に基づいて料理しました。
魚醤と蜂蜜をベースにワインやハーブの風味豊かなソースはプリプリのエビにとてもよく合いました。
詳しい作り方はこちらから
ウズラで代用して再現した古代ローマのヤマネ料理
古代ローマの裕福な美食家達は普通の食材に飽き足らず、さらなる珍味や饗宴の演出の為にいろいろな食材を追い求めました。
クジャク、オウム、フラミンゴ、ツグミやズアオアトリなどの小鳥類、カタツムリや豚の脳、シビレエイにウツボなど…
ヤマネもそうした食材の一つでした。グリラリウムという内側が螺旋状になった壺の中で肥育して食べたそうです。
さすがにヤマネは食材として流通していませんので、代わりにウズラを使って古代ローマのヤマネ料理を再現しています。中に豚挽肉を詰めてオーブンでパリッと焼き上げました。骨ごと食べられます。
詳しい作り方はこちら
古代ローマの調味料ガルム
古代ローマ料理の味付けにはガルム(又はリクァーメン)と呼ばれる調味料が使われました。ガルムとは魚醤の事です。つまりガルムは日本のしょっつるやタイのナンプラー、ベトナムのヌクマムなどと似た調味料だったのです。
魚を塩漬けを発酵させることで生まれる独特の旨味が古代ローマ料理の美味しさの秘訣だったのかもしれません。
『ゲオポニカ』という古代の文献には火を通して即席ガルムを作る方法が書かれていましたので試してみました。かなりしょっぱいですが、魚の旨味が溶け込んだ味わいがします。しかし、しっかりと発酵させた魚醤の味にはかないませんでした。
詳しい作り方はこちら
そら豆のウィテリウス風
ウィテリウスは古代ローマ8代目の皇帝です。
西暦69年のローマはガルバ、オト、ウィテリウスと三人の人物が皇帝に擁立されては数カ月で失脚する、という激動の年でした。
ウィテリウスは食べる事が大好きなだけの無能な人物でしたが、単純で扱いやすい性格だったため軍隊に担ぎ上げられ皇帝に即位します。その治世のあいだに行ったことといえば、毎日朝から晩まで饗宴でご馳走を食べる事でした。
その後ウィテリウスは、ローマ帝国東方の属州の軍団を率いたウェスパシアヌス軍に捉えられ、わずか8カ月の治世と人生の幕を閉じたのでした。
古代ローマのレシピ集である『アピキウスの料理書』にはウィテリウスの名がついた料理が載っています。その中からソラマメをつかった料理を再現しました。
古代ローマの麦のお粥
「パンとサーカス」という言葉で表される通り、古代ローマでは食事の中心はパンでした。しかし、麦のお粥も古代ローマの人々の大好きな食べ物でした。
庶民の食卓にあがることはもちろん、裕福な貴族層であっても饗宴の一品にお粥が出されることもあり、古代からパン食中心であったギリシア人に比べて、ローマ人は「お粥すすり」と揶揄されるくらいにお粥をよく食べました。
写真は引き割りのスペルト小麦を柔らかく似て、ガルム(魚醤)とアレック(魚醤の副産物の塩辛のようなもの)を添えただけのお粥です。ふすま部分が取り除かれておらず、茶色で玄米状態のスペルト小麦は玄米のお粥やソバの実のお粥のような素朴な風味です。
詳しいレシピ…というほどでもないですがこちらの記事にも書いています。
古代ローマの麦粥にかけて食べる豚肉のワインソース
古代ローマの街には気軽に食事をとることができる飲食店がたくさんありました。
軽食の店バール、居酒屋のようなタベルナ、たっぷり食べられる食堂のようなグルグスティウムなど、種類は様々、そして使われていた食材も多彩なものでした。
ポンペイの、ある飲食店の遺跡では容器から豚、魚、カタツムリなどの成分が検出されたそうです。
『アピキウスの料理書』は基本的に美食家のためのレシピ集ですが、その中でも材料が素朴でかつ栄養がある、古代ローマの庶民でも食べられそうな料理を選んで作ってみました。
味付けは魚醤がベースですが、赤ワインの酸味と豚肉やハーブの風味が合わさって、全体的にハヤシライスによく似た味わいに仕上がっています。
詳しい作り方はこちら
さて、他にも再現した古代ローマ料理はあるのですが、記事が長くなってきましたのでその2に続きます。
参考文献/
アスパラガスのパティナのレシピのみ
『古代ローマの饗宴』
エウジェニア・S・P・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社
『Cookery and Dining in Imperial Rome』Apicius著 Joseph Dommers Vehling著・英訳
その他の料理のレシピ参考
『アピーキウス 古代ローマの料理書』ミュラ・ヨコタ=宣子訳 三省堂
その他多数は各リンク先記事又はyoutube概要欄に記載