にゃこめしの食材博物記

どうも、にゃこめしです。自称・おもしろ食材探検家で、面白い食材を探したり、普通の食材の面白い話を探したりするのが好きです。歴史・文化・生物学に興味があります。京都で小さな飲食店を共同経営している料理人。

ウズラで代用した古代ローマのヤマネ料理

どうも、にゃこめしです。

今回は古代ローマの驚くべき食材の中でも特にインパクトの強い、ヤマネ料理を再現してみたいと思います。

まずはレシピの確認です。参考文献によるとヤマネのレシピは以下の通りです

ヨーロッパヤマネの四肢の肉全部を豚の肉団子1個、胡椒、松の実、ラーセル、リクァーメンと一緒にすりつぶし、これをヨーロッパヤマネに詰め、縫い合わせて、オーブンに入れて焼く。

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なお、アピキウスの料理書には材料の分量も、詳しい調理手順も書かれていません。料理人によって少しづつ再現される料理が変わってきます。
この先は、私が作るとどうなるのか、という視点でご覧頂ければと思います。

材料とその代用品

まずはヤマネです。資料ではヨーロッパヤマネとなっていますが、ヤマネに詳しい方に教えて頂いたところ、食用になるのはオオヤマネである、との事でした。ヨーロッパの一部地域では近年までオオヤマネを食べる食文化が残っており、現在でもクロアチアの一部では食べる事ができるようです。
f:id:nyakomeshi:20230516004157j:image画像WikimediaCommonsより

しかし、当たり前ですがオオヤマネは食材として流通しておらず、手に入れる事はできません。(ペットとしては希少ながら流通しているようです)
日本のヤマネも天然記念物ですから、もちろん捕ったり食べたりしてはいけません。
いろいろ考えた結果、今回は代用品としてウズラを用意しました。

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次に、ラーセルです。ラーセルピティウム、又はギリシア語でシルフィウムと呼ばれる事もあります。これはセリ科オオウイキョウ属の植物の樹脂から抽出された調味料です。この植物は残念ながら皇帝ネロの時代に絶滅してしまったといわれており、その後は代用品としてアサフェティダという植物が用いられてきました。これはインド料理などで使われているヒングというスパイスです。ガーリックパウダーで代用してもかまいません。f:id:nyakomeshi:20230516005848j:image

リクァーメンというのは古代ローマの魚醤の事です。今回はナンプラーで代用します。

材料

ウズラ4~8羽

豚ひき肉150g

松の実15g

ナンプラーまたは魚醤何でも 大さじ1

ヒング又はガーリックパウダー 耳かき1杯

作り方

1.ウズラの頭と足先を切り落とし、内蔵を取り除いて水洗いしておきます。f:id:nyakomeshi:20230516005051j:image

2.ヤマネの四肢の肉を豚の肉団子と一緒にすり潰す、とありますので、ウズラの手羽先と足を切り落とし、骨ごと叩いてミンチにします。

3.松の実15gをすり鉢ですり潰しておきます

4.豚ひき肉150gに3の松の実とヒング又はガーリックパウダーを加えます。ヒングを使う場合は風味が強いスパイスなので、入れすぎに注意しましょう。

5.4のひき肉に先ほどの叩いておいたウズラの肉と大さじ1のナンプラー(又は各種魚醤)、胡椒少々を加えます。

6.粘りが出るまで混ぜ合わせます。

7.一口サイズの肉団子を作り、内蔵を取り出して開いておいたウズラに詰めて形を整えます。

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8.210℃に熱したオーブンに入れ、まずは10分焼きます。

9.焼け具合を確認し、ひっくり返します。
ここで、お好みで蜂蜜をワインで薄めたタレを塗り、ケシの実を振りかけます。f:id:nyakomeshi:20230516005642j:image

10.再びオーブンに入れ、さらに10分焼きます。中心まで火が通り、表面がパリッと焼き上がっていれば完成です。f:id:nyakomeshi:20230516005510j:image
手順9の蜂蜜を塗り、ケシの実を振りかける部分はアピキウスの料理書のレシピには書かれていません。

しかし、古代ローマに多少詳しい方なら、ヤマネ料理といえばペトロニウスの小説『サテュリコン』の一場面、『トリマルキオの饗宴』をご存じかもしれません。そこには蜂蜜を塗って、ケシの実をまぶされたヤマネ料理料理が登場します。
せっかくなのでそちらも再現してみようという試みです。
今回は半分に蜂蜜を塗り、残り半分はアピキウスの料理書通りのレシピにそのまま焼き上げてみました。

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試食と感想

ヤマネで作ると一口サイズの大きさになる筈なのですが、ヤマネの代わりにウズラを使ったので大きさは2、3倍になってしまいました。
手で持って、丸ごとかぶりつきます。

皮は風味がよく、骨はパリパリとした食感です。一方、中の肉団子はしっとりジューシーで、2つの異なる食感が食べたときの楽しさを演出します。
骨ごと叩いて肉団子に混ぜたウズラの手足が、肉団子のなかでプチプチとした食感のアクセントとなり心地よいです。
ヒングというスパイスは、驚くほどの風味の豊かさです。ニンニクもタマネギも使っていないのに、香味野菜のような奥行きのある味わいとなりました。

それから、蜂蜜とケシの実です。
皮に塗って焼いた蜂蜜は予想を上回る美味しさです。もっとたっぷり濃いめに塗ればよかったです。

今回はヤマネを食べることは出来ませんでしたが、きっと美味しかったんだろうな…と思える一皿に仕上がりました。f:id:nyakomeshi:20230516003344j:image

参考文献/ミュラ=ヨコタ宣子訳 『アピーキウス古代ローマの料理書』三省堂

 

アピキウスの料理書に登場する変わった食材、驚くべきメニュー

どうも、にゃこめしです。

前回の記事では古代ローマのレシピ集であるアピキウスの料理書の構成と大まかな内容を紹介いたしました。

今回は、アピキウスの料理書のなかでも珍しい食材や驚くべきメニューにスポットを当ててご紹介したいと思います。

なお、最初に説明しておきたいのですが、このアピキウスの『料理書』は珍しくて高級な食材を追い求めた貴族達の、饗宴のための料理の記録です。

ローマの庶民の食文化とはかけ離れた部分があることを忘れてはなりません。

それでは、驚くべき食材達を紹介していきたいと思います。

まず、脳です。
美食家達は脳(おそらくはブタの脳)のコクのある濃厚な味を好んだらしく、料理書のあちこちに脳を使うレシピがあるのです。エンドウ豆と煮たり牛乳で煮たり、詰め物に使ったり…まるでありふれた食材であるかのようにつかわれています。

次は小鳥です。この料理書では肉の部分をほぐして煮物や玉子料理に使われています。小鳥の種類はツグミ、ヒタキ、ズアオアトリ、ズアオホオジロなどです。
ちなみにこれらの小鳥類はごく近年までフランスでは高級珍味として食べる文化が残っていましたが、今は保護のため捕獲が禁止されています。但し、密猟は絶えないようです。f:id:nyakomeshi:20230513193930j:imageポンペイの壁画の一部

それから、球根。この球根はタマネギやニンニクではなく、ハネムスカリという植物の球根だとされています。イタリア語ではランパショーニといい、今でも南イタリアの一部やギリシャの一部では春の味覚として親しまれている山菜です。ゆり根のようなホクホクした食感で、鮮烈な苦味が特徴なのだそうです。

f:id:nyakomeshi:20230513210616j:image画像WikipediaCommonsより

タツムリを使ったレシピもあります。現在でもエスカルゴは定番の食材なので、これはあまり驚かないかもしれませんね。古代ローマではカタツムリを乳や麦粉のお粥で飼育して太らせてから食べていました。

古代ローマ人がヤマネも肥育して食材にしていたことは有名な話ですね。ヤマネはグリラリウムという、中が螺旋状になった壺で肥育していました。このアピキウスの『料理書』にもヤマネの料理が書かれています。

 

そして、オウムやフラミンゴです。
『料理書』に書かれているフラミンゴ料理はこうです。

フラミンゴの皮を剥ぎ、洗って形を整え、水、塩、ディル、少量の酢を入れた大鍋で煮込みます。仕上げに葡萄酒を加えて色よく煮上がったらお皿に盛り、煮汁とハーブやスパイスで作ったソースをかけて提供します。オウムの場合も同様です。
この記述通りだと、おそらくフラミンゴは姿のまま食卓に供せられたものと思われます。お披露目の後、その場で給仕役の奴隷が切り分けたのかもしれません。


さて、驚くべき食材や料理の話をしてきましたが、誤解がないよう、庶民の普通の食生活とはかけ離れたものであった事をもう一度強調しておきたいと思います。
これらは豪華な饗宴で美食家達が驚きに満ちた演出をすべく、工夫を凝らして築き上げた料理の記録なのです。


ここまでの話を聞いて、あなたは食べてみたいと思うタイプですか?それとも、あまり食欲がわかないタイプですか?

私は断然、食べてみたいと思うタイプです(笑)

アピキウスの『料理書』の構成

どうも、にゃこめしです。

前回はアピキウスの料理書が辿った歴史について書きました。↓

今回はアピキウスの『料理書』がどんな構成になっており、各巻に書かれている内容を簡単にご紹介したいと思います。

アピキウスって誰だ?と思われた方はこちら↓

アピキウスの料理書は全10巻で構成されています。それぞれに文体が違い、おそらく別々の人物によって書かれたり、編集された物と考えられています。

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第一巻 勤勉な料理人
この巻の内容は主に二つです。一つ目はハーブや蜂蜜を混ぜたお酒の調合の方法です。古代ローマではワインを水で割って飲んでいました。その時に蜂蜜で甘みを足したりハーブで香り付けをしたりする事も多かったようです。苦ヨモギ酒やバラ酒などのレシピが紹介されています。
二つ目の内容は食材の保存法です。冷蔵庫がない時代の事ですから、酢に漬ける、塩水に浸すなど、様々な方法が紹介されています。料理のレシピがほとんど書かれていない事もこの巻の特徴になります。

第二巻 魚肉と獣肉のすり身
この巻はエビのすり身にイカのすり身、肉団子など、現代の私達の感覚からしてもとてもおいしそうな料理名が並びます。
なんと腸詰め、つまりソーセージのレシピも書かれています。

第三巻 菜園の庭師
アスパラガス、キュウリ、キャベツ、などのお馴染みの野菜からヒョウタン、フダンソウ、アオイなど馴染みのない野菜まで…様々な野菜とそれに合わせるソースが並びます。サラダや温野菜のような感じでいかにも体に良さそうです。「胃腸のためのつけ合わせ料理」なんてのもあります。

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第四巻 種々の材料を使った料理
ここでは五種類の料理が解説されています。
サラ・カッタビアという水に浸したパンと野菜などを冷やして食べる料理。
パティナという平たい鍋で作るオムレツやスープのような料理。この本ではキャセロールと訳されています。
色々な具材のスープに小麦粉でとろみをつけて仕上げたクリーム煮
大麦のスープ
温野菜
の五つです。それぞれの料理には「別の作り方」として材料や作り方を少しづつ変えた複数のレシピが紹介されています。

第五巻 豆類
驚くべき事に、この巻の内容は大半がエンドウ豆のレシピです。その数なんと16種類。他にはソラマメやヒラマメ、ヒヨコ豆などわー使った料理や大麦や小麦で作るお粥のレシピもあります。

第六巻 鳥料理
ここではニワトリだけでなく、ありとあらゆる種類の鳥が登場します。野鴨、ハト、ガチョウに始まり、ヤマウズラ、ツル、ダチョウに至るまで調理法とソースのレシピが並んでいます。

第七巻 贅沢な料理
猪、トリュフ、カタツムリなど、今日でも珍味で高級な食材を使ったレシピが並びます。また、豚肉料理が多いのも特徴です。

第八巻 獣
子豚、牛、羊にヤギ。ローストや網焼、丸焼き、それらに合わせるソース。お肉好きにはたまらない料理が並びます。
猪、鹿、や野兎などのジビエ料理なども多いです。

第九巻 海
イセエビ、イカ、タコ、ウニ、マグロ。この巻の前半部分は贅沢なレシピが並びます。対して後半部分では塩漬け保存された魚の調理法が紹介されています。

第十巻 漁師
この巻は魚料理に使うソースのレシピの羅列となっています。専門家によると、これらのソースのレシピは一世紀のアピキウス本人が書いた可能性がある部分だと言われています。

以上がアピキウスの『料理書』の大まかな構成です。機会があれば各レシピの中から作れそうな物を紹介していきたいと思います。

ですが。

アピキウスの『料理書』の本当に面白い所は実現不可能なレシピにあるのかもしれません。ヤマネ、フラミンゴ、オウムなど…

作ってみる事はできませんが、それらのレシピも折に触れて紹介していきたいと思います。

参考文献/アピーキウス古代ローマの料理書

ミュラ=ヨコタ宣子訳 三省堂

 

 

アピキウスの『料理書』が伝わった歴史

どうも、にゃこめしです。

最近、古代ローマのレシピ集であるアピキウスの『料理書』の日本語訳を手に入れました。古代ローマの食について書かれた本に引用されているので、部分的には知っていたのですが、完訳版は初めてです。f:id:nyakomeshi:20230310122651j:image

今回はこのアピキウスの料理書について、誰が書いたのか、どうやって伝わったのかを深掘りしてみたいと思います。

美食家アピキウスについての記事↓

アピキウスの料理書、というからには美食家アピキウスが書いた本なのだろうと思いきや、実はそうではありません。
アピキウスが一世紀頃の人物であるのに対して、この『料理書』が書かれたのは4世紀頃だということがわかっています。
専門家達がそう結論づけた理由とは、この料理書が

  • 4世紀頃の世俗的なラテン語で書かれていること
  • 1世紀のアピキウスが生きた時代よりも後の人物の名前をつけたメニューがあること、
  • アピキウスの「料理書」について言及されている資料は3世紀以降にしか見られないこと

などです。
美食家アピキウスが最も興味の無い分野である、食養生や医学に関する記述が含まれている事を理由に挙げる研究者もいます。

では、誰が書いたのかというと、作者は複数の人物だったのではないかと言われています。
実はこの『料理書』は内容も文体もバラバラであり、
完全な一品料理の作り方以外にも、材料や保存方法だけを列挙した部分、ソースの作り方ばかりの部分など、
料理や歴史に詳しくない人が読んでも、一人の作者が書いたものでは無いことに、簡単に気づくことが出来るものなのです。

研究者達によれば、
この料理書はアピキウス本人が書いた元の文献を元に、数世紀にわたって何度も編集され直したものであるとの事。
徐々に新しい料理が加えられ、古いものは除かれて少しずつ変化し、現在残っている形になったのではないか、と言われています。

ところで、古代の文献がどのように現代に伝わってきたのでしょうか。
印刷術がまだ発明されていない時代、人々は書物の内容を一文字一文字丁寧に書き写し、後の世に伝えてきました。
アピキウスの『料理書』もそうやって作られた写本の一つです。

しかし、人間が書き写すのですから、間違いもおこります。書き間違いによって、ある単語が違う単語に置き換わってしまったり、原文の一部が書き写されずに抜け落ちてしまったり。

そのため、この料理書には大事な材料が入っていないメニューも存在します。
(たとえば「ヒメジのディルソース仕立て」には肝心のディルが入っていません。)

現存するアピキウスの写本はわずか二点だけです。
どちらも850年頃にベネディクト修道院で書写されたもので、一つはニューヨーク医学アカデミー図書館に所蔵されています。f:id:nyakomeshi:20230310122813j:image

もう一つははバチカン図書館に所蔵されており、こちらはオンラインで内容を閲覧ことができます。

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バチカン図書館のデジタルライブラリー
https://digi.vatlib.it/
ここから閲覧することができます。
内容はすべてラテン語なので残念ながら私には読めませんが…

15世紀末に活版印刷が発明されて以降はヨーロッパ各国で翻訳・出版されました。f:id:nyakomeshi:20230310123814j:imagef:id:nyakomeshi:20230310124715j:image

こうして古代ローマの料理書が伝わってきた結果、現代の我々にも情報が届いているわけです。

歴史のロマンを感じますね。

料理書に書かれている驚くべき内容は、折に触れて紹介していきたいと思います。

 

参考文献/『アピーキウス・古代ローマの料理書』ミュラ・ヨコタ宣子訳 三省堂

 

 

大エビの古代ローマ風レシピ(アピキウスの料理書より)

どうも、にゃこめしです。

古代ローマの美食家アピキウスは大きなエビを求めて海を渡っても、満足なエビに出会えなかったという話を、前々回は書きました。

気になるのは満足のいくエビが手に入ったならアピキウスはどうやって食べるつもりだったのかという事です。

そこでミュラ=ヨコタ宣子さん訳の日本語版『アピキウスの料理書』を参考に、古代ローマのエビ料理を作ってみたいと思います。 f:id:nyakomeshi:20230218233451j:image
ちなみにアピキウスの料理書には材料の分量も、詳しい調理手順も書かれていません。料理人によって少しづつ再現される料理が変わってきます。
ここでご紹介するレシピも「正解」ではなく、私的にはこうだったんじゃないかな~と思う「仮説」の一つとしてお読み頂ければと思います。

手に入りにくい材料の代用品

エゾネギというのはチャイブというアサツキに似たネギの事です。アサツキ、万能ネギなど細めのネギで代用します。

ラヴィッジというのは別名「山のセロリ」とも呼ばれるハーブです。ベビーセロリで代用します。

ナツメヤシ(デーツ)は手に入らなければ干し柿やレーズンで代用しても大丈夫だと思います。

濃縮葡萄汁は代用としてポートワインを大さじ2。なければみりんで代用します。

リクァーメンというのは魚醤の事です。いしる、しょっつるナンプラーなど今回は能登半島で買ったサバのいしるを使いました。

レシピ

材料

大エビ、イセエビ、ロブスターなど 1~2匹
ブラックタイガーなどで作る場合は 10匹ほど
細ネギ(万能ネギ、アサツキ、ワケギなど)50g
ベビーセロリ15g
干しナツメヤシ 2粒
オリーブ油 大4
赤ワイン 大3
酒精強化ワイン又はみりん大2
魚醤(いしる、しょっつるナンプラーなど)大3
ワインビネガー 大2
蜂蜜 大1
キャラウェイ ひとつまみ
クミン ひとつまみ
胡椒 少々

ソースから作っていきます。

1.細ネギ、ベビーセロリ、ナツメヤシをそれぞれみじん切りにしておきます。

2.フライパンにオリーブ油を入れて火にかけ、ネギを炒めます。焦げ付かないように弱火でじっくりと時間をかけて、色づくまで炒めます。

2.1で刻んでおいたセロリとナツメヤシを加え、さらにキャラウェイ、クミンを加えます。

3.さっと炒めたら赤ワイン、酒精強化ワイン、ワインビネガー、魚醤、蜂蜜を加えます。アルコールを飛ばし、胡椒で味を整えます

ソースができたら、エビを調理します。

4.エビは真水でさっと洗い背わたを取り除きます。

5.鍋にたっぷりと湯を沸かし、塩を小さじ二杯(分量外)ほど加えます。エビをまっすぐ仕上げたい方は串を打っておきます。

6.沸騰したお湯にエビを入れ、茹でます。3~4分でエビが赤くなり、上に浮き上がってきたら引き上げます。

7.熱いまま殻をむき、一口サイズに切り分けます。大エビ、イセエビなど頭も食べる場合は半分に割っておきます。

8.皿に盛り付け、ソースをかけたら完成です。

試食

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特製ソースはじっくりと炒めたネギの旨味がたまりません。魚醤をベースにワインや蜂蜜で甘みをつけたソースは親しみがわく味です。
若干ウスターソースやお好みソースに似た味もしつつ、効かせたハーブがエキゾチックな雰囲気もかもし出しております。
クミンの食欲をそそる香りとキャラウェイ漢方薬を思わせるすっきりした香り、そしてセロリの風味。

大変美味しかったです。

プリニウス『博物誌』に登場する魚の話

1世紀後半。古代ローマに大プリニウスという博物学者がいました。

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↑画像wikimediacommonsより

プリニウスは大変勤勉で好奇心旺盛な人でした。勉強に費やす時間以外はすべて時間の浪費であると考えました。
彼の甥の小プリニウスは手紙の中で伯父プリニウスの人並み外れた生活について書き残しています。
プリニウスは公職に就いて多忙な生活の中でも勉強の時間を確保するため、さまざまな工夫をしていました。
休憩時間や食事の時間は朗読者に本を読ませ手早く覚え書きを作り、常に自分の傍に本と書き板を持った速記者を伴って行動していました。
浴槽に浸かっている時間以外はすべて読書に費やし、また、睡眠時間もとても短くてすむ体質だったようです。

彼の残した著書、全37巻の「博物誌」は膨大な文章量を誇ります。内容は多岐に渡り、天体の事、ローマの属州とそこに暮らす人々の事、動物の事、植物の事、人体の事、薬物の事などです。

その中には当然、その時代の食文化を知ることができる記述も多く含まれています。
今回はその中から魚に関する記述をいくつか引用してみたいと思います。

マグロ
この魚はいくつかに切り割かれる。そして首と腹が美味とされる。新鮮であれば喉もそうだ。(中略)マグロの他の部分全部が筋肉もなにもくるめて塩漬けにして保存される。

部位ごとに切り分けて売られているのは現代も同じですね。首というのは「背カミ」と呼ばれる中トロの部位でしょうか。腹はご存じ大トロ、中トロです。喉はカマの部分でしょう。現代日本と同じく、脂ののった部位が好まれていたことがわかります。

ベラ
今日では第一の地位はベラの類に与えられる。これは反芻し、ほかの魚を食わずに草を食べると言われている唯一の魚だ。(中略)オプタトゥスによってそこからいくらかのベラが輸入され、ティベル河口とカンパニア海岸の間に分配され放流された。(中略)その後、以前はイタリア沿岸では捕獲されることがなかったのに、しばしば見つかるようになった。このようにして食い道楽が、魚を養うことによって、今までになかった珍味にありつくようになったし、海には住民を授けたのだ。

草を食べる、との記述からベラ目の中でもブダイの仲間であることが分かります。おそらく地中海ブダイ(European parrotfish、Sparisoma cretense)でしょうか。
ブダイの仲間はとても美味しいです。とくに、火を通した時のホロホロととろけるような食感はやみつきになります。日本でももっと評価されても良いはずの魚…と思いきや、古代ローマではかなり評価が高かったのですね。

カマス
もっとも賞味されたカマスの種類は、そこの肉が白く柔らかいので羊毛カマスと呼ばれた種類である。(中略)しかしカマスの仲間は川で取れるのが珍重される。

カマスとカワカマスは同じ生き物と認識されていたのかもしれません。(前者はスズキ目カマス科、後者はカワカマス目カワカマス科の全く別種の魚)
しかし、食材としてはカワカマスのほうが高級品として別の扱いを受けていたようです。カワカマスは現在もフランス料理の食材です。

 

プリニウスの『博物誌』は膨大な情報量を誇りますので、今回ご紹介できたのもほんの一部です。まだまだ面白い記述がたくさんありますので、また紹介していきたいと思います!

参考文献/『博物誌』プリニウス著 雄山閣 中野定雄・中野里美・中野美代 訳

 

 

 

 

美食家アピキウスと大きな海老の話

どうも、にゃこめしです。

今回も古代ローマの美食家アピキウスのエピソードです。

 

紀元二世紀頃の作家、アテナイオスの「食卓の賢人たち」にはこんなエピソードが見られます。


アピキウスという男がいました。彼は非常に金持ちで贅沢な男で、何百万ドラクマもの金を腹の中に費やしました。

ある時アピキウスはカンパニアの都市ミントゥルネに滞在して、とても大きな海老を食べました。その海老は地中海のどこで捕れる物よりも大きく、立派でした。
しかし、アフリカのリビアで捕れる海老はもっと大きくて美味しいという噂を聞きつけたアピキウスはすぐに船に乗り込み、リビアに向けて出航しました。

当時の船旅は今よりもずっと困難がつきものです。嵐や荒れ狂う海に苦労しながらもアピキウスはリビアにたどり着きました。
その噂はアピキウスの船がリビアの港に着く頃にはすでに伝わっていました。リビアの漁師たちはアピキウスの船が見えるやいなや、その日の獲物のうちで最高の海老をもって、船に近寄って行きました。

期待に胸を膨らませながら、船の欄干から身を乗り出すアピキウス。
しかし彼は、漁師の海老をちらりと一瞥しただけで、ミントゥルネの海老と大した違いがない事に気づきます。
がっかりしたアピキウスはリビアに上陸する事もなく、そのまま帰ってしまいました。

 

なんと贅沢な…と思うような逸話ですが、それだけ新たな食材を探し出すのに情熱を傾けていたのかもしれません。

アピキウスは食の芸術家か、それともワガママな贅沢者か。

あなたはどちらだと思いますか?

参考文献/

古代ローマの饗宴 エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社

COOKERY AND DINING IN INPERIAL ROME Apicius著 JOSEPH DOMMERS VEHLING編