にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

プリニウスの『博物誌』その構成と内容

前回の記事では『博物誌』が1世紀の古代ローマから現代までどのように伝わって来たかを解説しました。
今回は『博物誌』に書かれている内容について、すべてはお伝え出来ませんが各巻の概要だけご紹介していきたいと思います。

私の手元にある本では全37巻が3冊にまとめられている。

『博物誌』は全37巻で構成されています。

1巻は目次です。2巻以降に書かれている内容と参考文献、その作家を列挙してあります。参考文献の中には歴史の中で失われてしまった著作も多く含まれており今日でも貴重な資料となっています。

2巻は宇宙や気象や地学に関する事柄が書かれています。
宇宙が球体であること、元素が4つであること、地球が球体であること、変わった気象現象の記録、地震の原因が星なのか風なのかという考察、などが書かれています。
日蝕や月蝕について「太陽はそれを横切る月の通過により隠され、月は地球の遮断によって隠される」と科学的に正確な記述が書かれている部分もあり、驚かされます。

3巻から6巻は地理に関する事柄が書かれています。
広大なローマ帝国の属州の地理的特徴や都市、気候、民族などがとても精緻で詳細に述べられています。諸外国についても書かれており、インドや中国、アフリカ内陸部まで記述は及びますが、遠くの地域になるほど不正確で疑わしいものになっていきます。しまいには上唇と舌をもたない種族やライオンやヒョウが主食の「野獣食人」、犬の顔をもった種族などが登場します。

7巻人間についてです。
カエサルの精神力やポンペイウスの業績などと並んで異常な視力の持ち主、水分を摂らずに生きた人、もっとも高値がつけられた奴隷など、様々なジャンルのすごい人たちに関する記録が列挙され、さながらテレビ番組のようです。
さらには首がなく肩に目がついた種族や半身半獣の種族などに関する記述もあります。人間の妊娠、出産について書かれている部分もあります。

8巻から11巻までは生き物についてです。
8巻は陸生動物についてです。馬やヒツジなど身近な家畜の他、ゾウについてもかなり詳しく記述されています。
9巻は水生生物です。イルカについてかなりの熱量で語られているほか、高級で贅沢な食材としての魚、真珠貝や染料のムラサキ貝等についても興味深いです。
10巻は鳥類です。様々な鳥の見た目や性質が述べられています。又、鶏やガチョウの肥育方法などにも触れられています。
11巻の前半は昆虫についてです。かなりの項目がミツバチに関する情報で占められています。後半は目、歯、心臓や胃、毛髪など人間や動物の身体のパーツについての記述です。

12巻から19巻は植物と植物の栽培や利用についてです。
12,13巻は外国の珍しい木やそこからとれる香料、ゴム、パピルスなどについて書かれ、
14巻では葡萄とワイン
15巻では果樹の栽培や利用について、
16巻は森林の樹木の利用について書かれています。
17巻は樹木栽培について、土づくりに接ぎ木や剪定とかなり専門的な内容です。
18巻穀物についてです。小麦や大麦の他雑穀や豆類について季節ごとの農作業や貯蔵、利用のしかたなど、かなり具体的かつ詳しい農業書、といった内容です。
19巻は冒頭で亜麻などの繊維植物について述べられ、その他大部分は菜園と栽培される植物についての記述です。カブ、レタス、タマネギなどなじみ深い野菜が登場します

20巻から27巻は植物とその薬効についてです。
膨大な植物の薬効が列挙され、プリニウスがもっとも力を注いだ部分ではないかといわれています。迷信や伝承によるものも多いですが、当時の医薬の知識の全てを詰め込んだような内容です。一部はその後抜粋されて「プリニウス医学」として中世ヨーロッパに普及しました。
20巻は菜園植物
21巻は花
22巻は草からとれる薬剤について
23巻は果樹や栽培された樹木からとれる薬剤について、
24巻は森林の樹木からとれる薬剤についてです。
25巻では冒頭で植物利用の歴史や伝説とその植物の薬効が語られます。
25巻の後半と26巻は目の薬に用いる植物、鼻の薬に用いる植物、と症状別に植物と薬効、利用方法が語られます。他にもお腹、皮膚、脱臼、腫れ物、熱病、痛風に効く薬など…一番実用性が高そうな部分ですね。
27巻はその他植物の薬効です。

28巻から30巻は主に陸生生物から得られる薬効について書かれています。
動物別にその薬効が書かれたり、症状別に動物が列挙されたり、途中で突然医学の起源について書かれたり、魔術の起源や魔術を行うドルイド僧やマギ僧への批判などが書かれたりします。
内容の構成はめちゃくちゃですが面白い部分でもあります。

31巻は水についてです。海水や塩、泉の水、温泉の薬効について述べられています。古代ローマの魚醤であるガルムやアレックについての記述もあります。

32巻は水生生物の薬効についてです。
症状別に薬効のある水生生物が挙げられている他、身体は小さいのに大きな船を動けなくしてしまう謎の魚コバンザメ、見ただけで流産し触れると数日後に死んでしまう不思議な生物ウミウサギの話なども書かれています。

33巻と34巻は金属や合金についてです。
指輪や貨幣、装飾品や彫刻についても語られます。
35巻は絵画と画家や絵具について、
36巻は大理石と建造物について、
37巻は宝石についてです。

最後に母なる自然を祝福する短い文で博物誌は締めくくられています。

さて、解説が駆け足になってしまいましたが『博物誌』の内容が膨大で多岐に渡ることだけはお伝え出来たと思います…。

次は博物誌の中から面白いエピソードをいくつか抜粋してお伝えしたいと思います。

参考文献/『プリニウスの博物誌』
プリニウス著 中野定雄・中野里美・中野美代訳 雄山閣