にゃこめしの食材博物記

どうも、にゃこめしです。自称・おもしろ食材探検家で、面白い食材を探したり、普通の食材の面白い話を探したりするのが好きです。歴史・文化・生物学に興味があります。京都で小さな飲食店を共同経営している料理人。

プリニウス『博物誌』に登場する魚の話

1世紀後半。古代ローマに大プリニウスという博物学者がいました。

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↑画像wikimediacommonsより

プリニウスは大変勤勉で好奇心旺盛な人でした。勉強に費やす時間以外はすべて時間の浪費であると考えました。
彼の甥の小プリニウスは手紙の中で伯父プリニウスの人並み外れた生活について書き残しています。
プリニウスは公職に就いて多忙な生活の中でも勉強の時間を確保するため、さまざまな工夫をしていました。
休憩時間や食事の時間は朗読者に本を読ませ手早く覚え書きを作り、常に自分の傍に本と書き板を持った速記者を伴って行動していました。
浴槽に浸かっている時間以外はすべて読書に費やし、また、睡眠時間もとても短くてすむ体質だったようです。

彼の残した著書、全37巻の「博物誌」は膨大な文章量を誇ります。内容は多岐に渡り、天体の事、ローマの属州とそこに暮らす人々の事、動物の事、植物の事、人体の事、薬物の事などです。

その中には当然、その時代の食文化を知ることができる記述も多く含まれています。
今回はその中から魚に関する記述をいくつか引用してみたいと思います。

マグロ
この魚はいくつかに切り割かれる。そして首と腹が美味とされる。新鮮であれば喉もそうだ。(中略)マグロの他の部分全部が筋肉もなにもくるめて塩漬けにして保存される。

部位ごとに切り分けて売られているのは現代も同じですね。首というのは「背カミ」と呼ばれる中トロの部位でしょうか。腹はご存じ大トロ、中トロです。喉はカマの部分でしょう。現代日本と同じく、脂ののった部位が好まれていたことがわかります。

ベラ
今日では第一の地位はベラの類に与えられる。これは反芻し、ほかの魚を食わずに草を食べると言われている唯一の魚だ。(中略)オプタトゥスによってそこからいくらかのベラが輸入され、ティベル河口とカンパニア海岸の間に分配され放流された。(中略)その後、以前はイタリア沿岸では捕獲されることがなかったのに、しばしば見つかるようになった。このようにして食い道楽が、魚を養うことによって、今までになかった珍味にありつくようになったし、海には住民を授けたのだ。

草を食べる、との記述からベラ目の中でもブダイの仲間であることが分かります。おそらく地中海ブダイ(European parrotfish、Sparisoma cretense)でしょうか。
ブダイの仲間はとても美味しいです。とくに、火を通した時のホロホロととろけるような食感はやみつきになります。日本でももっと評価されても良いはずの魚…と思いきや、古代ローマではかなり評価が高かったのですね。

カマス
もっとも賞味されたカマスの種類は、そこの肉が白く柔らかいので羊毛カマスと呼ばれた種類である。(中略)しかしカマスの仲間は川で取れるのが珍重される。

カマスとカワカマスは同じ生き物と認識されていたのかもしれません。(前者はスズキ目カマス科、後者はカワカマス目カワカマス科の全く別種の魚)
しかし、食材としてはカワカマスのほうが高級品として別の扱いを受けていたようです。カワカマスは現在もフランス料理の食材です。

 

プリニウスの『博物誌』は膨大な情報量を誇りますので、今回ご紹介できたのもほんの一部です。まだまだ面白い記述がたくさんありますので、また紹介していきたいと思います!

参考文献/『博物誌』プリニウス著 雄山閣 中野定雄・中野里美・中野美代 訳

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