にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

古代ローマの饗宴に招待されたら3…テーブルマナー

数回に渡り、古代ローマの饗宴に招待されたら、と題して服装、席順と紹介してきました。
今回は饗宴のテーブルマナーを紹介していきましょう。

まずは体の左側を下にして横になります。左肘で身体を支え、右手で食べたり飲んだりします。

料理は基本的に指でつまめるサイズに作られているか、大きいものは給仕係の奴隷が切り分けてくれるので、それを手掴みで食べます。右手の指先だけを使うのが良いとされ、手のひら全体で食べ物を掴むのは野蛮な事だとされました。

スープやお粥が提供される場合はスプーンが使われました。スプーンには様々な種類があり、大きいものや小さいもの、コクレアルと呼ばれるカタツムリ専用のものもありました。

コクレアルと呼ばれるカタツムリ専用スプーン。柄が尖っている。

他には食べ物を混ぜたり突き刺したりするために使われた、先の尖った棒状の食器もありました。これは大きいものはルディクス、小さいものはルディクラと呼ばれました。

取り皿を使うこともあったようです。
大抵はあまり高価なものは使われず、素焼きのシンプルな皿を使い捨てにするか、硬くて平たいパンを取り皿にしました。

食べ物を落としてしまうのは不吉な事だとされました。そして、落ちた食べ物は拾ってはいけません。
食事室の床は死霊達の領域です。
ローマ人はより古い時代には家族が亡くなると家の床下に埋める風習があったとされます。ローマの都市化が進むにつれてその風習は無くなりましたが、その後も食事室の床は冥界を表すとされました。
ただし、肉や魚の骨などの食べかすはそのまま床に投げ捨てます。そしてそれを片づけるのは奴隷の役割でした。

散らかった床のモザイク画

こちらのモザイク画は食事室の床部分の装飾でした。魚の頭などや食べかすが描かれているのは散らかり具合をごまかす為とも、死霊達を慰める為とも言われています。

食事中のゲップについては研究者によって意見が分かれています。現代に残る資料では「大きな音を立ててゲップをした」という記述が何ヶ所もあります。
これをその人物が下品で卑しい人物であることを表現していると捉えるか、ゲップをするのが当然又は良いこととされる文化であったと捉えるかで解釈が全く違ってしまう為です。
今回参考にした文献の中ではゲップ肯定派が多かったです。
現代でも中国や中東の一部には食事に満足していることを示すためにゲップをする文化が残っていますね。

食事中のオナラに関しては、合法です。
4代目皇帝クラウディウスは、食事中に臭い瓦斯やおならを出すのを大目に見ると告示しました。恥ずかしさからオナラをじっと我慢している人が、とうとう危険な状態に陥ったのを目撃したからだそうです。
このクラウディウスの告示を証拠に、古代ローマ人は饗宴の最中にオナラをした、としている文献もあります。
しかし個人的には疑問を持っています。このエピソードはオナラが恥ずかしいものという感覚が前提だからです。

皆さんはどう思いますか?

さて、ローマの饗宴といえば嘔吐してまた食べるといった印象をお持ちの方も多いでしょう。歴史家スエトニウスのローマ皇帝伝の記述から抜粋すると、

クラウディウスは満腹し酩酊しない限り、なかなか食堂から退出しなかった。この後すぐに寝台に仰向けになり、口を開け喉の奥に羽毛をつっこみ、胃の負担を軽くしてもらっていた”

“ウィテリウスは朝食と昼食と夕食と夜ふけの酒盛りを摂り、いつも嘔吐によってどの食事も難なくこなしていた”

などの記述がみられます。
ただし、嘔吐に対する考え方は人それぞれであり、饗宴に出席する誰もがそうした訳ではありません。
哲学者セネカ

“彼らは、食べるために嘔吐し、嘔吐するために食べます。彼らは、全世界から探し集められたごちそうを、消化すらしてくださらないわけです。”

と痛烈に避難しています。