どうも、にゃこめしです。
今回は古代ローマの驚くべき食材の中でも特にインパクトの強い、ヤマネ料理を再現してみたいと思います。
まずはレシピの確認です。参考文献によるとヤマネのレシピは以下の通りです
ヨーロッパヤマネの四肢の肉全部を豚の肉団子1個、胡椒、松の実、ラーセル、リクァーメンと一緒にすりつぶし、これをヨーロッパヤマネに詰め、縫い合わせて、オーブンに入れて焼く。
なお、アピキウスの料理書には材料の分量も、詳しい調理手順も書かれていません。料理人によって少しづつ再現される料理が変わってきます。
この先は、私が作るとどうなるのか、という視点でご覧頂ければと思います。
材料とその代用品
まずはヤマネです。資料ではヨーロッパヤマネとなっていますが、ヤマネに詳しい方に教えて頂いたところ、食用になるのはオオヤマネである、との事でした。ヨーロッパの一部地域では近年までオオヤマネを食べる食文化が残っており、現在でもクロアチアの一部では食べる事ができるようです。
画像WikimediaCommonsより
しかし、当たり前ですがオオヤマネは食材として流通しておらず、手に入れる事はできません。(ペットとしては希少ながら流通しているようです)
日本のヤマネも天然記念物ですから、もちろん捕ったり食べたりしてはいけません。
いろいろ考えた結果、今回は代用品としてウズラを用意しました。
次に、ラーセルです。ラーセルピティウム、又はギリシア語でシルフィウムと呼ばれる事もあります。これはセリ科オオウイキョウ属の植物の樹脂から抽出された調味料です。この植物は残念ながら皇帝ネロの時代に絶滅してしまったといわれており、その後は代用品としてアサフェティダという植物が用いられてきました。これはインド料理などで使われているヒングというスパイスです。ガーリックパウダーで代用してもかまいません。
リクァーメンというのは古代ローマの魚醤の事です。今回はナンプラーで代用します。
材料
ウズラ4~8羽
豚ひき肉150g
松の実15g
ナンプラーまたは魚醤何でも 大さじ1
ヒング又はガーリックパウダー 耳かき1杯
作り方
1.ウズラの頭と足先を切り落とし、内蔵を取り除いて水洗いしておきます。
2.ヤマネの四肢の肉を豚の肉団子と一緒にすり潰す、とありますので、ウズラの手羽先と足を切り落とし、骨ごと叩いてミンチにします。
3.松の実15gをすり鉢ですり潰しておきます
4.豚ひき肉150gに3の松の実とヒング又はガーリックパウダーを加えます。ヒングを使う場合は風味が強いスパイスなので、入れすぎに注意しましょう。
5.4のひき肉に先ほどの叩いておいたウズラの肉と大さじ1のナンプラー(又は各種魚醤)、胡椒少々を加えます。
6.粘りが出るまで混ぜ合わせます。
7.一口サイズの肉団子を作り、内蔵を取り出して開いておいたウズラに詰めて形を整えます。
8.210℃に熱したオーブンに入れ、まずは10分焼きます。
9.焼け具合を確認し、ひっくり返します。
ここで、お好みで蜂蜜をワインで薄めたタレを塗り、ケシの実を振りかけます。
10.再びオーブンに入れ、さらに10分焼きます。中心まで火が通り、表面がパリッと焼き上がっていれば完成です。
手順9の蜂蜜を塗り、ケシの実を振りかける部分はアピキウスの料理書のレシピには書かれていません。
しかし、古代ローマに多少詳しい方なら、ヤマネ料理といえばペトロニウスの小説『サテュリコン』の一場面、『トリマルキオの饗宴』をご存じかもしれません。そこには蜂蜜を塗って、ケシの実をまぶされたヤマネ料理料理が登場します。
せっかくなのでそちらも再現してみようという試みです。
今回は半分に蜂蜜を塗り、残り半分はアピキウスの料理書通りのレシピにそのまま焼き上げてみました。
試食と感想
ヤマネで作ると一口サイズの大きさになる筈なのですが、ヤマネの代わりにウズラを使ったので大きさは2、3倍になってしまいました。
手で持って、丸ごとかぶりつきます。
皮は風味がよく、骨はパリパリとした食感です。一方、中の肉団子はしっとりジューシーで、2つの異なる食感が食べたときの楽しさを演出します。
骨ごと叩いて肉団子に混ぜたウズラの手足が、肉団子のなかでプチプチとした食感のアクセントとなり心地よいです。
ヒングというスパイスは、驚くほどの風味の豊かさです。ニンニクもタマネギも使っていないのに、香味野菜のような奥行きのある味わいとなりました。
それから、蜂蜜とケシの実です。
皮に塗って焼いた蜂蜜は予想を上回る美味しさです。もっとたっぷり濃いめに塗ればよかったです。
今回はヤマネを食べることは出来ませんでしたが、きっと美味しかったんだろうな…と思える一皿に仕上がりました。
参考文献/ミュラ=ヨコタ宣子訳 『アピーキウス古代ローマの料理書』三省堂