古代ローマのレシピ集であり、謎に満ちた奇書でもある「アピキウスの料理帳」(アピシウスとも)。
↓アピキウスって誰だ?料理帳って何だ?と思われた方はこちらをお読みください。古代ローマの美食家アピキウスの話 - にゃこめしの食材博物記
そこに記されたレシピの中で、現在でも作りやすいものは「アスパラガスのパティナ」という料理だと思われます。
材料は比較的、手に入りやすい物です。揃えにくい材料は代用が可能です。
それでは、レシピを見ていきましょう。
古代から伝わるレシピを読み解く
今回参考にしたのは「古代ローマの饗宴」という本。
アスパラガスのパティナ 『料理書』4,2,6
普通は捨ててしまうアスパラガスの茎を、こね鉢に入れてすりつぶし、葡萄酒を入れて裏ごしする。胡椒、ラヴィッジ、コリアンダーの葉、セイヴォリー、玉葱をすりつぶし、葡萄酒、リクァーメン、油を入れて混ぜ合わせる。こうしてできたピューレを、油を塗った平鍋に移しかえる。火にかけるとき、好みで、割りほぐした卵をつなぎに加える。焼きあがったら胡椒をふり、食卓にだす。
古代の文献ゆえ、分量や火加減などが書かれていません。葡萄酒は赤なのか白なのか。魔法の呪文のような不思議な響きの調味料やハーブ類。さらに、卵は「好みで」となっていますが、卵を入れなくては固まりません。これに関しては文献にも
卵がないとつなぎの役を果たすものがない。その場合にはせいぜいスープのようなものとして供したのであろう。
と書かれています。今回は卵を入れて作ることにします。
もう一つ、参考にした本が「COOKERY AND DINING IN INPERIAL ROME」という本です。英語ですが、電子書籍なら100円前後で読むことができます。そこにも同じメニューが書かれているので確認します。
[133]ANOTHER ASPARAGUS CUSTARD ALIA PATINA DE ASPARAGIS
ASPARAGUS PIE IS MADE LIKE THIS [1] PUT IN THE MORTAR ASPARAGUS TIPS [2] CRUSH PEPPER, LOVAGE, GREEN CORIANDER, SAVORY AND ONIONS; CRUSH, DILUTE WITH WINE, BROTH AND OIL. PUT THIS IN A WELL-GREASED PAN, AND, IF YOU LIKE, ADD WHILE ON THE FIRE SOME BEATEN EGGS TO IT TO THICKEN IT, COOK [without boiling the eggs] AND SPRINKLE WITH VERY FINE PEPPER.
ほぼ同じ内容となっています。冒頭にANOTHERと書かれているのは違うバリエーションの、アスパラガスのパティナのレシピがいくつか書かれているためです。ここでBROTH(だし)と書かれているものは、先の文献ではリクァーメンとなっています。
ちなみに、パティナというのは料理の種類や特定の調理法ではありません。調べてみると、平皿や平鍋ぐらいの意味のようです。
手に入りにくい材料と代用品
ラヴィッジとは、セリ科のハーブです。和名はラベージのため、検索する場合は「ラベージ」の表記にすると得られる情報が多くなります。アピキウスの料理帳にはラヴィッジがしょっちゅう登場します。日本でいうと…何にでも刻みネギを添えるような感じかな…。今回は同じセリ科のサラダ用セロリで代用します。イタリアンパセリでも良いと思います。
セイヴォリーとはシソ科キダチハッカ属のハーブです。すっきりとした芳香が特徴なのだそう。ネットで買うこともできるようですが、今回はシソ科イブキジャコウソウ属のハーブ、タイム(粉末)で代用します。こちらもすっきりとした芳香が特徴です。
リクァーメンとは、古代ローマの魚醤のような調味料です。今回は日本の魚醤である、能登半島の「サバのいしる」で代用します。同じく日本の魚醤の「しょっつる」もしくは東南アジアの魚醤、「ナンプラー」でも良いと思います。
葡萄酒に関しては、赤なのか白なのか全く書かれていません。古代ローマの葡萄酒は今のワインよりずっと甘い飲み物で、そのまま飲むのではなく、水で薄めて飲むものでした。なので、今回は酒精強化ワインを使いました。なければ甘口の白ワインで。
現代風レシピ
材料
- アスパラガス 8本
- 酒精強化ワイン又は甘口白ワイン 小さじ2
- 胡椒 少々
- セロリ又はイタリアンパセリ 5g
- コリアンダーの葉又はパクチーペーストなど5g
- タイム(粉末) 少々
- 玉ねぎ 10g
- いしる又はしょっつる 小さじ1 ナンプラーの場合は小さじ2
- オリーブオイル小さじ2
- 卵 2個
では、作っていきましょう!
- アスパラガスは根本の硬い部分を1〜2cmほど切り落とし、ピーラーで下半分の硬い皮をむいておく。鍋にお湯を沸かし、アスパラガスをゆでる。
- ゆであがったアスパラガスは穂先を切り落とし(最後の飾りに使います。余ったぶんはそのまま食べたり別の料理などに。)根本の方はすりつぶしやすいように3〜4等分に切る
- すべての材料をミキサーに入れ、滑らかになるまですり潰す。(現代風のこね鉢(笑))
- グラタン皿にオリーブオイルを塗り(分量外)、3を注ぎます。(けっこうシャパシャパです。味見をしてみると、この時点で美味しい)
- 170℃に予熱しておいたオーブンに入れ、焦げていないか時々確認しながら15分程焼きます。焼きあがったら好みで胡椒をふり、アスパラガスの穂先を飾ります
食べてみた
卵がふわふわに焼き上がり、まるでスフレのようです。口に入れると、ふんわり、シュワシュワと溶けていきます。
アスパラガスの味にハーブの青い香りがプラスされて、とても風味豊かです。魚醤の味はわれわれ日本人にとっても大変親しみやすい味です。
全体的に素朴ですが、ハーブが効いていてオシャレなお味でした。
古代ローマから伝わるアピキウスの料理帳のこの料理。大変美味しくいただきました。
皇帝達や軍人、元老院の政治家たちもこのような料理を食べていたかもしれません。ちょっとだけ彼らにお近づきになれたようで、ワクワクした晩ごはんでした。
この他にも様々な古代ローマの料理を再現しています。
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参考文献/HP
古代ローマの饗宴
エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社
COOKERY AND DINING IN INPERIAL ROME
Apicius著 JOSEPH DOMMERS VEHLING編集
https://www.online-latin-dictionary.com