にゃこめしの食材博物記

YouTubeチャンネル「古代ローマ食堂へようこそ」の中の人のブログ。古代ローマの食文化についての記事を中心に、様々な歴史や食文化について調べて書いているブログです。

ししごろしという豆の話

どうも、にゃこめしです。先日、「ししごろし」という豆を見つけました。
兵庫県佐用の道の駅で売られていたものです。小粒でつやつやの黒い豆です。
似たような豆はこれまで見たことがありません。興味がわいたので、即購入しました。

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「ししごろし」とネットで検索しても、あまり情報がありません。

私と同じく佐用の道の駅でししごろしを購入された方が、「猪もびっくりするほど美味しい豆」と書いていたブログがありました。
しかし、その他の情報は分かりません。

果たして、この「ししごろし」とはどんな豆なのでしょう。

犯人は現場に戻る‥‥ではありませんが、ヒントはちゃんと売り場にありました。

「ししごろし」の下に(黒千石)と書いてあります。ししごろしとは、黒千石大豆のこの地域での呼び名のようです。f:id:nyakomeshi:20220531151729j:image

黒千石大豆は「幻の黒千石」などのキャッチコピーで呼ばれています。

もともと北海道の在来種で、昔から人間が食べる他、飼料や緑肥用の作物として栽培されていたそうです。
ところが、普通の大豆より栽培が難しいため、1970年代以降は栽培されなくなりました。いつしか、黒千石大豆という品種そのものが絶滅したと思われていました。

ところが2002年、研究者の手によりわずかに生き残っていた黒千石大豆が再発見されます。50粒の種からもう一度、黒千石大豆をよみがえらせる挑戦が始まります。
発芽したのは50粒のうち28粒。
そこから紆余曲折を経て、黒千石大豆は見事に復活を遂げました。
今では北海道を中心に各地で生産・栽培されています。

普通の黒大豆よりイソフラボンポリフェノールの含有量が高いため、近年は健康食品として注目が集まっているようです。

私がこの「ししごろし」こと黒千石大豆を買ったのは兵庫県佐用です。
兵庫県といえば、丹波篠山市を中心に、丹波黒大豆の一大生産地。大粒の丹波黒大豆に名物として前面に押し出されている「もち大豆」。数々の味噌や醤油。
そして、北海道出身の「ししごろし」こと黒千石大豆まで栽培してしまう。
兵庫県佐用の地域は本当に豆に対する造詣が深い地域なのだな、と思います。

さて、この「ししごろし」どうやって食べるのかというと、豆ごはんがおすすめのようです。

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『黒千石大豆』で検索しても、必ず豆ごはんや炊き込みご飯が出てきます。
早速作っていきましょう。

豆はあらかじめ水に漬けておいても、漬けておかなくてもどちらでも良いです。
水に浸しておくと、ご飯となじみの良いふっくらとした豆に仕上がります。
浸しておかない場合は、プチプチとした食感の雑穀米のような仕上がりになります。
お好みの方で作ってみてください。

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今回私は、5時間ほど浸水させました。
漬けておいた水が鮮やかな紫色になっています。f:id:nyakomeshi:20220531152015j:image

漬けておいた水ごと炊飯器に入れてから水加減を合わせます。
既にほんのり紫色です。水加減、炊飯器の設定共に普通の白ご飯と同じで大丈夫でした。
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炊きあがりすぐは色ムラがあります。
さっくり混ぜ合わせてしばらく蒸らすと色が均一になりました。

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気になるお味はというと、
お赤飯のようでもあり、黒豆の香りもします。ひきわり大豆と一緒に炊いたご飯にも似ているような気がします。
しっかりとした豆の風味と塩味が相まって、しみじみとしたおいしさです。
十六穀米などの雑穀系が好きな人は、ハマる味だとおもいます。

まだまだ沢山あるので、黒米や麦とミックスして、オリジナルの健康ご飯を試してみるのも楽しそうです。
弁当やおにぎりにもぴったりでした!
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参考HP

北竜町ポータル

黒千石大豆・黒千石事業協同組合

https://portal.hokuryu.info/kurosengoku/

 

アピキウスのハーブ、ラヴィッジの話

古代ローマの美食家、アピキウス(アピシウス)の記したとされる『料理帖』。

そのレシピの中で、頻繁に使われるハーブがあります。

それは「ラヴィッジ」です。

  • 胡椒、ラヴィッジオレガノをすりつぶし、煮汁をかけてのばす
    (ヒメジの料理)
  • ラヴィッジをすりつぶし、リクァーメンで味付けして豆の上に流し込む
    (野菜スープ)
  • 乳鉢で胡椒、ラヴィッジをすりつぶし、葡萄酒と油を加える
    (オムレツのような卵料理)
  • 胡椒、ラヴィッジオレガノをすりつぶし、リクァーメンを振りかけ・・・
    (仔豚の料理)

魚、野菜、卵、肉・・・どんな食材のレシピにもラヴィッジが登場します。
これでは、全部同じ味になってしまうのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、現代の料理でも同じように「いつも出てくる食材」というのはあるものです。

たとえば和食なら、酒・みりん・砂糖・醤油がいつも出てきます。しかし、出来上がった料理はそれぞれ違うものとして食べています。すき焼きと肉じゃがは違うし、菜っ葉の炊いたんや筑前煮はそれぞれ別のものです。

洋風のレシピならいつも「塩・コショウ少々」などと書かれています。

外食すれば何にでもレモンが添えてあったり、パセリが添えてあったり、ネギがのっていたり。

おそらく、このような感覚で古代ローマ人ラヴィッジを使っていたのだと思います。

 

さて、このラヴィッジがどんな植物であったかというと、

セリ目、セリ科の多年草植物です。草丈は大きく育つと1.8m~2.5mにまで成長し、根元から何本も丈夫な茎をのばして葉をつけます。

標準和名は「ラベージ」。ほかにも「ラビッジ」「ロベージ」などと表記されることが多いようです。外国語の発音を無理やりカタカナで書くといろいろなバリエーションができてしまいますよね。

英語では「ラベージLovage」のほかに「ラブ・パセリLove parsley」という素敵な名前があります。イタリア語では「山のセロリ」と呼ばれているようです。

同じセリ科であるセロリやパセリによく似た風味のハーブだったのでしょう。
消毒や鎮咳作用など、薬用植物としての役割もあり、古くはヨーロッパ全土で栽培されてきたのですが、現在ではかなり限定された地域でのみ使われているようです。

もちろん、日本での知名度はありません。百貨店で探しても購入は難しそうです。

参考文献にしている『古代ローマの饗宴』という書籍のなかでも筆者は、

現在でもラヴィッジは薬草商に行けば多少困難でも見つけることができる(中略)
もっともラヴィッジの乾燥葉はもっぱら藁の香りがするだけだが…(中略)

新鮮なラヴィッジは今ではもう手に入らない

と記したうえで、パセリとセロリの葉を刻み合わせて使うことを提案している。

しかし、謎に満ちたハーブであるラヴィッジは本当にもう、手に入らないのでしょうか。

 

手に入れました!!

 

海外のハーブの種を輸入しているお店から、ラベージの種を買うことができました。f:id:nyakomeshi:20220406123458j:image

珍しいアイテムを手に入れられる、私ってAmazonって、本当にすごいですね。現代社会の情報と流通に感謝です。

種はこんな形状です。クミンやキャラウェイに似ています。

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種のままでも大変良い香りがしました。セロリのような芳香です。胸がすっとして、食欲がそそられます。

早速植えてみました。

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同じくアピキウスのレシピに頻繁に登場するハーブ、セイヴォリーも一緒に取り寄せて植えています。これで、古代ローマの食事より正確に再現できます。

成長が楽しみでなりません。
しかし、狭いベランダで2m以上に成長したらどうしよう・・・

 

↓アピキウスについて詳しく書いています

古代ローマ料理を実際に作ってみた際の記事です。レシピの材料にラヴィッジが登場します。

参考文献/HP

古代ローマの饗宴

エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社

 

 

ツタンカーメンとお肉のミイラの話

どうも、にゃこめしです。
非常食の肉の缶詰を一晩で食べてしまい、只今猛反省中です。
保存食って、大事ですよね。f:id:nyakomeshi:20220329161517j:image

古代エジプトの王族達も牛肉や家禽の肉など、いろいろなお肉をミイラにして保存していました。そのレシピは以下のようなものです。

  • まずは美味しそうなお肉を塩漬けにしてゆっくり、しっかりと乾燥させます。
  • そして布や包帯で巻きます。
  • 樹脂で覆い、防腐処理を行います。
  • 細かい編目のカゴや、木の箱などに収めて、
  • 王族のミイラや副葬品と共に埋葬しました。

それらは、死後の世界で食べ物に困らないようにする為のものでした。

 

日本で一番名の知られているファラオといえば、ツタンカーメンでしょう。

この美しき少年王のお墓からも、数々の副葬品と共にお肉のミイラが発見されています。

(出土した様々な食品の中で)肉に関して述べるなら、4ダースの木箱にはさまざまな肉のミイラが入っていました。骨付きの牛肉の切り身がたくさん、9羽のアヒル、4羽のガチョウ、そしてさまざまな種類の小鳥の肉。

他にも保存された食品が発見されています。大麦や小麦、イチジクやブドウやメロンなどの様々な果物(ドライフルーツ?)、ワインに蜂蜜。死後の世界でも美味しいものが食べられるように、色々準備されていた事がわかりますね。

 

更に、ツタンカーメン王の曽祖父イウヤと曾祖母トゥヤの墓からもお肉のミイラがたくさん発見されています。

17個の木箱の中に、リネンで包まれた子牛の足、アンテロープ(レイヨウ)の肩肉、3羽のガチョウ、鳩と思われる小鳥

などが発見されたようです。

当時の食生活の一端が垣間見えます。ツタンカーメンの曽祖父母イウヤとトゥヤは王族ではなかったものの、上流階級の人物であったことは間違いありません。日々、豊かな食生活を送っていたことでしょう。

これだけ準備万端なら、死後の世界でもおいしいお肉が食べられそうですね。

私はアンテロープのお肉が食べてみたいです!

 

↓こちらもツタンカーメンについて書いてます。


ツタンカーメンのエンドウ豆 - にゃこめしの食材博物記

 

参考HP

Nationalgeographicより

Packing Food for the Hereafter in Ancient Egypt


Packing Food for the Hereafter in Ancient Egypt

 

 

アウグストゥスとウツボの話

ローマ帝国では「特別なご馳走」の食材としてウツボが飼育されていた、という記録があるそうです。その中の1つをご紹介したいと思います。

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ローマの歴史家、カッシウス・ディオ(155-229)の著書『ローマ史』54巻23頁にはこう書かれています。

『美食家ウェディウス・ポリオが初代ローマ皇帝アウグストゥスを饗宴に招待した時、奴隷の一人がクリスタルのグラスを割ってしまった。
怒ったポリオはその奴隷をウツボの養殖池に投げ込むよう命じた。
奴隷がひざまずいて許しを乞うと、皇帝アウグストゥスはまず、ポリオにこのような残虐な振る舞いはやめるよう言い聞かせた。
次に皇帝は割れたグラスと同じものか、同じぐらいに高価なグラスを集めさせ、それらを叩き割ってしまうよう命じた。』

和訳:にゃこめし 間違ってたらすみません。

 

カッシウス・ディオはアウグストゥス帝の時代から150年近く後の時代の人物です。このエピソードが本当の事かはもはや知る由もありません。ですが、この時代の貴族が食用としてウツボを飼育していた事が伺える、貴重な資料のひとつだと考えられます。

別の古代ローマの歴史家、タキトゥスもこのエピソードを知っていたようで、『年代記』の中で

ウェディウス・ポリオの悪事

と言及しています。

 

なお、ここに登場する魚はウツボであることが一般的ですが、文献によってはアナゴと訳されている例もありました。

また、英語の文献ではlamprays-ヤツメウナギとなっている場合もあります。ヤツメウナギも古代よりヨーロッパ各地で食用とされてきた歴史がある魚です。

 

ウツボ、アナゴ、ヤツメウナギ
果たしてどれが正解なのか?
英語もあまり得意でないし、イタリア語もラテン語古代ギリシャ語も読めない私には、これ以上は調べることができません。

 

ただ、料理人として一つ言える事は、ウツボとアナゴは同じ捌き方で調理は出来ないという事。捌いてみると皮も身も骨も、硬さや弾力が全く違います。

更に、ウツボは骨格が複雑なので、特殊なさばき方をしなくては食べられません。

美食の文化が華開いた古代ローマの事ですから、きっと当時のの料理人達もそれぞれ使い分けていたと思います。

 

ポリオが本当に奴隷を餌にしてしまおうと思っていたのなら、大型で獰猛なウツボが一番、このエピソードに似合うと思うのですが。

 

参考文献/参考HP

https://lexundria.com/

年代記 タキトゥス著 国原吉之助訳 岩波文庫

華やかな食物誌 澁澤龍彦

 

ミノカサゴを食べた話

どうも、にゃこめしです。
今回はミノカサゴが手に入りました。

毒針を持つ魚として有名ですが、身に毒がある訳ではないので、適切に処理すれば、美味しく食べられる魚です。

まずはさばく前に、美しい姿を心ゆくまで鑑賞します。

↓胸ビレを開いた所。美しいです。

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↓毒針に注意しながら腹ビレを開いた所。
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それでは調理していきましょう!

まずは毒のある部分を把握します。

毒の棘は背ビレ、腹ビレ、尻ビレにあります。胸ビレは派手なのでいかにも毒がありそうですが、実は軟らかい筋で構成されています。

手を保護する為に業務用の手袋を着用して、作業していきましょう。家庭用ゴム手袋は、魚の棘の前には余りに無力です。一瞬で突き破られます。

 

ウロコを落としました。美しい模様が失われてしまいました(涙)

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頭と胸ビレ、腹ビレを切り落とし、内蔵を取り除きます。

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ずいぶん小さくなってしまいました。これを更に3枚におろします。

ここまで作業して気づいたのですが、先に毒のある棘をハサミで切り落としてから、ウロコを落としたりさばいたりする作業に取り掛かるべきでした。

いくら慣れているとはいえ、油断と慢心はいけませんね。
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↓ハイ、これだけになりました。もはや何の魚だかわかりませんね。

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ネット上の画像では、長いヒレもついたまま調理されたミノカサゴの画像をたくさん見ることができます。しかしアレはちょっと危ないのではないかな、と思ってしまいます。自分一人で食べるなら、もちろん自由ですが。

今回は食べる人が私だけではなかったので、万が一の事があっては責任がとれません。なので完全に身だけの状態にしました。

酒、みりん、しょうゆ、砂糖で煮付けました。

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気になるお味はというと…

淡白で上品な白身です。加熱してもパサつかず、トロトロで柔らかです。

普通のカサゴの煮付けのお味とあまり変わりませんが、ミノカサゴのほうが若干、柔らかめの食感です。

大変美味しくいただきました!

 

 

 

古代ローマ料理『アピキウスの豆のスープ』を再現しようとしてちょっと違うものになってしまった話

古代ローマの美食家、アピキウス。

その謎に満ちたレシピ集、『料理帳』。

今回もその中から比較的材料が手に入りやすいレシピを選んで古代ローマの食事を再現してみます。

 

最初に白状しておきますが、今回は事前の資料の調べ方が不足していて、ちょっと違うものになってしまいました。

 

参考文献のレシピ

今回、参考にした本は『おいしい古代ローマ物語 アピキウスの料理帳』という本です。

この本のレシピは材料の代用品や調理の手順など具体的に書いてあるので、とにかく古代ローマ料理っぽいものを作ってみたいという人にはおすすめです。

しかし、アレンジされたレシピになっているので、アピキウスのレシピそのままという訳ではありません。

あと、レシピ通りではうまくいかない部分が多々ありますので、適当に調節しながら作りました。このあたりの感覚は料理に慣れていないとわからないところですね…

とりあえず、本に載っていたままのレシピを引用しておきます。

豆のスープ ミネストローネ風(173)

材料と分量(4人分)

  • 大麦 200g
  • 豆類 全部で200g
  • 水 1000ccくらい
  • 塩 小さじ2
  • オリーブオイル 50cc
  • ネギ、フェンネル、クレソン、あればマロウなどの野菜 各少々
  • ディルとコリアンダー 少々
  • キャベツの芯 適宜

作り方

  1. 大麦を、水に浸してやわらかくしておく。
  2. レンズ豆、ヒヨコ豆、インゲン豆など色とりどりの豆をやわらかくした大麦と一緒に水煮する。
  3. 途中で塩を加え、豆がよく煮えたら、オリーブ油を加える。そこへ、ネギ、フェンネル(下茎)、クレソンなどの野菜を加え、さっと煮る
  4. 香りづけに、ディルとコリアンダーを散らし、火からおろす。
  5. 別にボイルしたキャベツの芯を細切りにして、上に散らして飾る

作ってみる

まず、レシピに書かれていませんが、乾燥豆を使う場合は必ず前日から豆を水に浸けておく必要があります。今回はヒヨコ豆とインゲン豆を用意しました。

ヒヨコ豆とインゲン豆は下ゆでが必要です。それぞれゆで時間も違うので、別々に下ゆでしなければいけません…。

そして、ゆでてしまってから気づいたのですが、インゲン豆はアメリカ大陸の原産でした。古代ローマに存在するワケないですよね。

それに、どう考えても豆の量が多かった!f:id:nyakomeshi:20220312120930j:image

大麦は麦ごはん用の押し麦を使ったので水に浸けておく工程は省きました。こちらも、レシピでは200gとありましたが、どう考えても多すぎます! 結局、80gにしておきましたが、水1000ccでは足りず、あと500ccほど足しています。

 

塩は、小さじ1で十分でした。水は足しているのに。この辺りは好みもあるかと思いますが。

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野菜が入るスペースが無くなって来ましたが、無理矢理入れます。フェンネルをちゃんと用意しました。

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今回、ディルは粉末。刻んだコリアンダーとキャベツの芯を載せて出来上がりです。f:id:nyakomeshi:20220312121227j:image

試食とお味レポート

気になるお味は…予想以上に美味しい!

このスープにはコンソメや鶏ガラスープなどの出汁になるものが一切入っていません。味付けは塩のみなので、正直、期待していませんでした。ですが、ネギやフェンネルが出汁に似た役割を果たし、味のベースとなってくれていました。

刻んだコリアンダーやディルはシャキッと鼻に抜けるような、華やかな香りを演出します。

大麦から出るとろみが全体を一つにまとめる役割をしています。

アピキウスのレシピ、原点とは少々違うものになりましたが、古代ローマの風味程度は味わえたかな、と思います。

 

反省と次回の課題

今回の最大の失敗は、インゲン豆を使ってしまった事だと思っています。インゲン豆はアメリカ大陸原産です。古代ローマにあるはずのない食材です。

それにしても、アレンジされていないレシピではどうなっていたのでしょう。気になったので調べてみることにしました。

 

今回参考にした本『おいしい古代ローマ物語 アピキウスの料理帳』のアピキウスのレシピは、アメリカの研究者JOSEPH DOMMERS VEHLINGさんの『COOKERY AND DINING IN IMPERIAL ROME』という英語の本を元にしている、と記されていました。

そこで、英語ですが『COOKERY AND DINING IN IMPERIAL ROME』の方に書かれた元のレシピを調べてみることにしました。

 

インゲン豆は使われておらず、“pea”たぶんエンドウ豆?となっていました。

そして、一番大きな違いは、豆類が“crush”されている、おそらく挽き割りになっている言葉です。

全体は野菜とハーブの入ったお粥のような仕上がりになるようです。

 

次回は、こちらのレシピに従って作ってみたいと思います。

もっと古代ローマを身近に感じたい!

 

 

参考文献

おいしい古代ローマ物語アピキウスの料理帳

上田和子著 原書房

 

COOKERY AND DINING IN IMPERIAL ROME

Apicius著 Joseph Dommers Vehling編

 

古代ローマの料理「アスパラガスのパティナ」を再現してみた

古代ローマのレシピ集であり、謎に満ちた奇書でもある「アピキウスの料理帳」(アピシウスとも)。

↓アピキウスって誰だ?料理帳って何だ?と思われた方はこちらをお読みください。


古代ローマの美食家アピキウスの話 - にゃこめしの食材博物記

 

 

そこに記されたレシピの中で、現在でも作りやすいものは「アスパラガスのパティナ」という料理だと思われます。

材料は比較的、手に入りやすい物です。揃えにくい材料は代用が可能です。

それでは、レシピを見ていきましょう。

 

古代から伝わるレシピを読み解く

今回参考にしたのは「古代ローマの饗宴」という本。

アスパラガスのパティナ 『料理書』4,2,6

普通は捨ててしまうアスパラガスの茎を、こね鉢に入れてすりつぶし、葡萄酒を入れて裏ごしする。胡椒、ラヴィッジ、コリアンダーの葉、セイヴォリー、玉葱をすりつぶし、葡萄酒、リクァーメン、油を入れて混ぜ合わせる。こうしてできたピューレを、油を塗った平鍋に移しかえる。火にかけるとき、好みで、割りほぐした卵をつなぎに加える。焼きあがったら胡椒をふり、食卓にだす。

古代の文献ゆえ、分量や火加減などが書かれていません。葡萄酒は赤なのか白なのか。魔法の呪文のような不思議な響きの調味料やハーブ類。さらに、卵は「好みで」となっていますが、卵を入れなくては固まりません。これに関しては文献にも

卵がないとつなぎの役を果たすものがない。その場合にはせいぜいスープのようなものとして供したのであろう。

と書かれています。今回は卵を入れて作ることにします。

もう一つ、参考にした本が「COOKERY AND DINING IN INPERIAL ROME」という本です。英語ですが、電子書籍なら100円前後で読むことができます。そこにも同じメニューが書かれているので確認します。

[133]ANOTHER ASPARAGUS CUSTARD ALIA PATINA DE ASPARAGIS

ASPARAGUS PIE IS MADE LIKE THIS [1] PUT IN THE MORTAR ASPARAGUS TIPS [2] CRUSH PEPPER, LOVAGE, GREEN CORIANDER, SAVORY AND ONIONS; CRUSH, DILUTE WITH WINE, BROTH AND OIL. PUT THIS IN A WELL-GREASED PAN, AND, IF YOU LIKE, ADD WHILE ON THE FIRE SOME BEATEN EGGS TO IT TO THICKEN IT, COOK [without boiling the eggs] AND SPRINKLE WITH VERY FINE PEPPER.

ほぼ同じ内容となっています。冒頭にANOTHERと書かれているのは違うバリエーションの、アスパラガスのパティナのレシピがいくつか書かれているためです。ここでBROTH(だし)と書かれているものは、先の文献ではリクァーメンとなっています。

ちなみに、パティナというのは料理の種類や特定の調理法ではありません。調べてみると、平皿や平鍋ぐらいの意味のようです。

手に入りにくい材料と代用品

ラヴィッジとは、セリ科のハーブです。和名はラベージのため、検索する場合は「ラベージ」の表記にすると得られる情報が多くなります。アピキウスの料理帳にはラヴィッジがしょっちゅう登場します。日本でいうと…何にでも刻みネギを添えるような感じかな…。今回は同じセリ科のサラダ用セロリで代用します。イタリアンパセリでも良いと思います。

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セイヴォリーとはシソ科キダチハッカ属のハーブです。すっきりとした芳香が特徴なのだそう。ネットで買うこともできるようですが、今回はシソ科イブキジャコウソウ属のハーブ、タイム(粉末)で代用します。こちらもすっきりとした芳香が特徴です。

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リクァーメンとは、古代ローマの魚醤のような調味料です。今回は日本の魚醤である、能登半島の「サバのいしる」で代用します。同じく日本の魚醤の「しょっつる」もしくは東南アジアの魚醤、「ナンプラー」でも良いと思います。

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葡萄酒に関しては、赤なのか白なのか全く書かれていません。古代ローマの葡萄酒は今のワインよりずっと甘い飲み物で、そのまま飲むのではなく、水で薄めて飲むものでした。なので、今回は酒精強化ワインを使いました。なければ甘口の白ワインで。f:id:nyakomeshi:20220305025201j:image

現代風レシピ

材料

では、作っていきましょう!

  1. アスパラガスは根本の硬い部分を1〜2cmほど切り落とし、ピーラーで下半分の硬い皮をむいておく。鍋にお湯を沸かし、アスパラガスをゆでる。
  2. ゆであがったアスパラガスは穂先を切り落とし(最後の飾りに使います。余ったぶんはそのまま食べたり別の料理などに。)根本の方はすりつぶしやすいように3〜4等分に切る
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  3. すべての材料をミキサーに入れ、滑らかになるまですり潰す。(現代風のこね鉢(笑))
  4. グラタン皿にオリーブオイルを塗り(分量外)、3を注ぎます。(けっこうシャパシャパです。味見をしてみると、この時点で美味しい)
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  5. 170℃に予熱しておいたオーブンに入れ、焦げていないか時々確認しながら15分程焼きます。焼きあがったら好みで胡椒をふり、アスパラガスの穂先を飾ります
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食べてみた

卵がふわふわに焼き上がり、まるでスフレのようです。口に入れると、ふんわり、シュワシュワと溶けていきます。

アスパラガスの味にハーブの青い香りがプラスされて、とても風味豊かです。魚醤の味はわれわれ日本人にとっても大変親しみやすい味です。

全体的に素朴ですが、ハーブが効いていてオシャレなお味でした。

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古代ローマから伝わるアピキウスの料理帳のこの料理。大変美味しくいただきました。

皇帝達や軍人、元老院の政治家たちもこのような料理を食べていたかもしれません。ちょっとだけ彼らにお近づきになれたようで、ワクワクした晩ごはんでした。

参考文献/HP

古代ローマの饗宴
エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ著 武谷なおみ訳 平凡社

COOKERY AND DINING IN INPERIAL ROME
Apicius著 JOSEPH DOMMERS VEHLING編集

https://www.online-latin-dictionary.com